概要
バルカンを開く(Open Balkan、オープン・バルカン)は、バルカン半島に位置するアルバニア、北マケドニア、セルビアの3か国が加盟する経済・政治圏の構築を目指す地域協力プロジェクトで、3か国は貿易と協力の拡大、および二国間関係の改善を目指している。
(以下、カタカナ表記の「オープン・バルカン」を使用)
オープン・バルカンは旧称を「ミニ・シェンゲン圏」といった。「シェンゲン圏(Schengen Area)」とは、1985年より制定されたシェンゲン協定が適用される領域であり、欧州連合(EU)27か国のうちの25か国と欧州自由貿易連合(EFTA)4か国の計29か国からなる。
圏内における国家間で国境の検査がなく出入国が自由、渡航者は圏内に入域または圏外へ出域する際に国境検査を受けるのみで、この点で単一の国家のようになっている。
オープン・バルカンを形成する3か国は、本稿執筆時点ではまだ欧州連合(EU)加盟もシェンゲン圏入りも果たせていない。
オープン・バルカン構想は、上記シェンゲン圏のような地域・経済圏をバルカン半島の地で実現しようとする構想として1990年代初頭に生まれた。しかし、この計画はユーゴスラビア戦争により最終的に放棄された。
欧州連合(EU)による拡大モラトリアムへの対応として ジャン=クロード・ユンケル氏が2014年に発表した政策により、西バルカン諸国には「ベルリン・プロセス」が提供された。これはドイツが主導する地域協力イニシアチブである。
オープン・バルカンはその正反対を意図しており、地域内での協力を促進できる能力を自ら示したいと熱望する西バルカン諸国の指導者らが開発した国内プロジェクトである。
このイニシアチブは、2019年10月に関係国の首脳がノヴィサドで署名した宣言で開始され、その後ティラナとオフリドで他の2つの共同宣言が署名された。その構想は、物品、サービス、資本、人の自由な移動(いわゆる4つの自由)を可能にする、EUと同様の共通市場を創設することであった。
関係各国はそれぞれの方法でこのイニシアチブがもたらす可能性のある利益を認識した。アルバニアにとって、コソボとの国境が開放されれば、両側のアルバニア人は何の制約もなく4つの自由を享受できるようになる。セルビアにとって、この構想はベオグラードとプリシュティナの関係の非公式正常化と見なされる緊張緩和につながると見込まrた。北マケドニアにとって、この構想は、プレスパ協定とその後の国名の変更が国民と地元政治の口に苦い思いを残した後、地域レベルで政治的勢いを取り戻す機会となると考えられた。
当初の熱意にもかかわらず、今日、オープン・バルカンのプロジェクトは行き詰まりをみせているようだ。その理由は多岐にわたる。
その行き詰まりの原因は、第一に、主にセルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領とアルバニアのエディ・ラマ首相、つまり国内の政治レベルで利益を得られる場合に限り、地域の取り組みを支援する用意がある二人の指導者によって推進されたプロジェクトの構造そのものに起因している。
第二に、このイニシアチブにはモンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボといった他の国々が関与したことは一度もなく、これらの国々はいずれもオープン・バルカンに対して不信感を示し、望ましい代替案としてベルリン・プロセスを支持したことによる。
第三に、ロシアのウクライナ侵略によって引き起こされた地政学的変化により、EUは拡大政策のUターンを余儀なくされた影響である。
2024年3月、EUはボスニア・ヘルツェゴビナとの加盟交渉を開始することを決定した。数か月前にはモルドバとウクライナも交渉開始のゴーサインを受け取った。拡大の復活は、オープン・バルカンのような代替的な取り組みに負の圧力をかけている。
統合効果
オープンバルカンの目的は、貿易や学生交流の機会を拡大し、加盟国におけるEU統合を促進することなどである。加盟国の国民はIDカードのみで他の加盟国を訪問できるため、国境通過の時間が節約される。この経済圏は、各国が欧州連合(EU)加盟するための準備体制を整えるのに資するものと考えられている。
この経済圏の確率により、3か国間の商品と資本の流れが速く活発になり、推計で、毎年これら3 か国の国境間手続きの所要時間が3,000万時間以上節約されると見込まれている。世界銀行の推定では32億ドルの節約(経済効果)が見込まれるとされる。
2021年7月29日、ヴチッチ、ラマ、ザエフの3人はスコピエで地域経済協力フォーラムに参加し、物品の移動、労働市場へのアクセス、災害に対する協力に関する協定に署名した。学位や職業資格の相互受け入れが合意されており、これにより労働力がより柔軟かつ利用可能になり、より多くの投資を誘致できる。この取り組みの一環として、主にこれら3か国からの企業だけでなく、より広い地域からの企業も含め約350社が参加した地域経済フォーラムも開催された。
加盟国
時期 | 状況 | メンバーシップ |
---|---|---|
2021.7.29 | 創設 | アルバニア、北マケドニア、セルビア |
アルバニア共和国
Republic of Albania
- 国土面積は28,748km2(四国の約1.5倍)で世界143位、人口は288万人で世界137位
- 共和制、議会における間接選挙によって選出される大統領が国家元首、首相は大統領により任命、アルバニア議会の一院制
- 名目国内総生産(GDP)は世界126位、購買力平価(PPP)で世界120位
●首都
ティラナ
北マケドニア共和国
Republic of North Macedonia
- 国土面積は25,333km2(九州の約3分の2)で世界148位、人口は208万人で世界145位
- 共和制、国民の直接選挙で選出される大統領が国家元首、議院内閣制、北マケドニア議会の一院制
- 名目国内総生産(GDP)は世界131位、購買力平価(PPP)で世界125位
●首都
スコピエ
セルビア共和国
Република Србија
Republika Srbija
- 国土面積は88,361km2で世界113位、人口は691万人で世界106位(コソボ除く)
- 共和制で大統領が国家元首、議院内閣制、国民議会の一院制
- 名目国内総生産(GDP)は世界88位、購買力平価(PPP)で世界80位
●首都
ベオグラード
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