投資スタイルをあれこれ吟味する意味
世の中で最適な投資スタイル(運用スタイル)とは、実際に儲かった投資スタイル・投資手法のことである。しかし、それは、この手で再現できるとは限らない。自分の手で、その時に最良の手法・方法を選択する必要がある。
投資スタイルとは銘打ったが、以下に挙げたものは、投資手法だったり、特定の銘柄の特徴だったり、職業・肩書だったり、投資ファンドの運用方針だったり、あくまで著名な投資家の個人的な選好だったりする。
常に最良の投資スタイルを実際に選択できるとは限らないが、世の中にどういうものがあるかを知っておくことは重要である。
- ファンダメンタルズ分析
- テクニカル分析(チャーチスト)
- バリュー投資
- グロース投資
- コントラリアン
- スマートベータ
- 砂上の楼閣
- ストラテジスト
- クオンツ
- 太陽黒点説
- デイトレード
- HFT
- リスクパリティ戦略
- スイングトレード
- うねりどり
- メカニカルトレード
- 裁量トレード
- スキャルピング
- 株主優待券
- アクティブ運用
- パッシブ運用
- トップダウン・アプローチ
- ボトムアップ・アプローチ
- システム運用
- リサーチ・アクティブ運用
この中から、特筆すべきと思われる重要なものを取り上げて説明を加える。
ランダム・ウォーク
過去の金融商品の値動きには規則性はなく、将来の値動きを予測するのには全く役に立たないとする考え方。
株式市場には投資意思決定に利用可能なすべての情報がすでに織り込まれているとする「効率的市場仮説」に基づく。
ランダム・ウォークを仮定すると、金融商品の値動き、逆の言い方をすると価格変動リスク、は保有期間に比例して大きくなると考えられている。
オプションの理論価格を求めるブラックショールズモデルなど金融工学の多くのモデルも金融商品の値動きは、ランダム・ウォークであることを前提に構築されている。
1827年、ロバート・ブラウンが、液体や気体中に浮遊する微粒子が、不規則(ランダム)に運動する現象「ブラウン運動」を発見し、金融商品の値動きが「ブラウン運動」と同じように不規則にランダム・ウォークする性質をもつのを最初に発見したのは仏数学者バシェリエとされる。
統計学的には、長期の株価の収益率は「対数正規分布」に従うことが観察されている。
よって、この理論の信奉者がとる投資スタイルは、
- いかなる予測・予想も確実に当たるという根性はない
- よって、十分にリスクが分散されたインデックスファンドに投資する
- それが株式市場で達成されるリスク・リターンのトレードオフを一番取り逃がさない
1900年代以降、アメリカの株式市場の年平均収益率は5.5%とされている。この手法をとれば、長期的には、年利5.5%の収益機会が保証されている、と考えることができる。
インデックスファンド
インデックスファンドとは、そのファンドが運用目標としている指数を構成する銘柄をその構成比率を保ったまま全てを買う投資手法を採用している。
インデックスファンドには、大別して、投資信託とETFがある。
基準価格(純資産総額を発行している受益証券の総口数で割ったもの)で取引できるものが投資信託で、一般的には販売金融機関の窓口(もちろんネットも可能)で購入する。
ETF(Exchange Traded Fund :上場投資信託)は、インデックスファンド自体が上場されているため、個別株式のように市場で取引することができる。
購入単位(一口当たりの最低金額)は、それぞれによって異なるが、傾向として、投資信託の方が小口で購入できる場合が多く、積立投資に利用しやすい。
一方、ETFは市場が空いている時間(夜間PTS含む)ならば、いつでも取引することができ、信用取引も可能である。
市場のランダム・ウォークを考えれば、インデックスファンドを活用した投資が合理的であるとされる。
対比されるものに、アクティブファンドがある。こちらは、指数ではなく、ファンドマネージャーにより厳選された銘柄の証券投資が行われる。
インデックスファンドは、アクティブファンドとの対比で、パッシブファンドとも呼ばれる。
主なインデックス(指数):日経平均(日経225)、東証株価指数(TOPIX)、REIT(Real Estate Investment Trust:不動産投資信託)、債券、外国為替、コモディティ商品、外国株式指数(NYダウ、NASDAQ、S&P500など)
株式投資は本当にハイリスク・ハイリターンか
一般的に、債券に比べて株式は値動きが激しく、ハイリスク・ハイリターンで、一部のハイ・イ―ルド債は例外とすると、債券の方が相対的に値動きがそれほど大きくないため、ローリスク・ローリターンであると考える人が多い。
株式のリターンの源泉は、企業が稼得する利益であり、インフレに連動して価値が上がる実物資産の裏付けがあるため、インフレ耐性がある = インフレに対するヘッジ機能がある、とされる。
一方で、債券は利回りが固定されているため、インフレに対するヘッジ機能は有していない。また、債券の価値は、発行者の財務的信用力によって担保されていることから、国内外の政治環境の変化や経済情勢の趨勢によって、大きく価値が変動することもある。
それゆえ、長期(ここでは10年単位で考えておく)の視点に立てば、株式投資の方が債券投資より、インフレヘッジ機能が働く分だけ、リスクが小さいと考えることもできる。
ファンダメンタルズ分析
株式であれ不動産であれ、投資対象となる世の中の金融資産にはすべて、本質的な価値が存在し、取引市場で値付けされている価格が、その本源的な価値と乖離していると判断された際に、投資収益機会が生まれる、という考え方。
取引価格 ≒ 本質的な価値
もし、取引価格(時価)が本質的な価値より低ければ、それは割安である。もし、取引価格(時価)が本質的な価値より高ければ、それは割高である。
ジョン・バー・ウィリアムが、「割引(discounting)」という概念を初めて株式価値の算定に取り込んだとされる。
「配当割引モデル(DDM:Dividend Discount Model)」は、株式の価値は、その株を持ち続けた場合に将来支払われる配当の現在価値の合計値であると考える。
DDMによって導かれる価値より、時価が低い場合は割安となり、これを購入(または信用買い、コールオプションの購入)すれば、収益機会が得られる。
「二段階成長配当割引モデル」や、「株主総利回り(TSR:Total Shareholders Return)」のコンセプトなど、単純なDDMに応用を加えて、モデルの精緻化を追究することとなる。
この考え方を拡大解釈し、株式の本質的価値(ファンダメンタル・バリュー)を、マクロ経済の分析や、投資対象企業や投資対象企業が属する産業・業種の財務状況や業績状況のデータを分析することで見出そうとする手法もこれに含める。
「長期投資」を推奨する根拠は、おおよそこの理論に基づくものである。
「オマハの賢人」と讃えられる、バークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務めている、ウォーレン・バフェット氏がこの手法で、成功したとされている。
しかし、最近では、バフェット氏の投資スタイルには、短期的なトレードによるリターンが多く含まれていること、若き頃には、短期的な投資スタンスで成功したことなども、報道されるようになった。
米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は割安株の長期投資家として知られるが、実際は買った銘柄の3分の2を5年以内に売却するなど、「短気」投資家の側面もある。
バフェット氏の運用詳解 「短気」投資家で失敗も多く 編集委員 前田昌孝|日本経済新聞|2020/6/3
(有料会員向け記事)
下記は、バフェットが師と仰ぐベンジャミン・グレアム教授とバフェットの著書を参考に挙げておく。
テクニカル分析・チャート分析
現在、多くのテクニカル分析・チャート分析に基づく手法が発明されている。
ここで忘れてはいけないのは、それらの手法はすべて、次の2つの基本的な考え方に立脚していることである。
- 株価には本質的な価値は存在しない
- 効率的市場仮説は成立しない
実際に市場で形成される株価は、その銘柄が代表する会社の企業価値を本源的に合わらしているのではなく、経済学者のジョン・メイナード・ケインズがいうところの、「美人投票」で決まる、すなわち、投資対象とされる企業に対する風評や先行きの期待感・失望感、あるいは需給関係で決まるものと考える。
効率的市場仮説には3つの型が想定されている。ここではそのうちの2つの問題にする。
ウィーク型効率性では、株価は系列依存性を見せず、資産価格に「パターン」は存在しないとする。よって過去の価格の分析から未来の価格を予想することはできないことが仮定される。
セミストロング型効率性の場合は、新しい情報が得られたときに株価が急速にかつ偏りなく調整すると仮定する。そのため、新情報に依拠した取引では超過収益を得ることはできないと考える。
しかし、実際には、市場が調整するスピードが問題で、投資家が超過収益にあずかれる期間が全くないとは言い切れない。
ここでは、個別の手法は取り上げないが、代表的な手法の種類分けは、着眼点に沿って、次のように分けられるのが一般的。
- トレンド分析
- 値動きのトレンドや強さを示す
- オシレーター系指標
- 需給の強弱に着目
- サイクル分析/パターン分析/ヒストリカル分析
- チャート(ローソク足など)の形状に売買のタイミングを見つける
↓近著で比較的網羅的なものがこちら。
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