概要
エーヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略(ACMECS: Ayeyawady-Chao Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy)は、2003年にタイのイニシアティブにより、域内格差を是正するため立ち上げられたメコン地域諸国独自の協力枠組みである。
名称の由来は、ミャンマーを流れるエーヤーワディ川(旧称:イラワディ川、イラワジ川)、タイを流れるチャオプラヤ川、ラオス・タイ・カンボジアを流れるメコン川からきている。
創設メンバーは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイの4か国で、2004年からベトナムが参加して現在5か国がメンバーとなっている。2~3年に一度首脳会議を開催し、協力方針をアップデートしてきている。日本は2019年からACMECS開発パートナーである。
創設とこれまでの活動経緯
タイのタクシン首相(当時)が、2003年4月29日にバンコクで開催されたSARSに関する特別ASEAN首脳会議で、カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ間の経済協力戦略(ECS)構想を提唱した。
2003年11月12日、ミャンマーのバガンで同構想に基づきサミットを開催し、同構想を「パガン宣言」として発表した。この4国間協定は、正式にはこの地域を流れる主要河川の名前を付け、エーヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略(ACMECS)と称されることとなった。
「バガン宣言」では、5つの優先協力分野で協力する決意を表明するとともに、今後10年間で実施する46の共通プロジェクトと224の二国間プロジェクトからなる経済協力戦略行動計画を承認した。
この4国間協定の主な内容は、同様な歴史的、文化的、宗教的遺産をもつタイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアの4か国が様々な経済協力戦略を駆使して、同地域を平和で安定し経済が成長する地域に転換しようとするものであった。
ベトナムは、当初この協定に加盟していなかったが、2004年4月にはベトナムの外務大臣がこの構想に参加する意向があることを表明、5月10日付けで加盟国となった。
ACMECSは、国連ミレニアム開発目標に沿って、貧困削減を含む持続可能な開発を自助とパートナーシップで達成することに重点を置いている。
ACMECSは、5か国の国境地域を経済成長、社会進歩、繁栄の地域に変え、共通の利益、繁栄の共有、連帯の強化、平和、安定、善隣友好のために地方、国家、地域の利益を融合することを目的として、既存の地域協力プログラムを構築し、二国間枠組みを補完する触媒として機能することを目指している。
タイは、イニシアティブをとってこの戦略を進めている。そこでは、タイは農業や労働集約的な製造業等を国境周辺あるいは近隣諸国内に移転させ近隣諸国のより安価な労働力や資源を活用することを企図している。それにより近隣諸国も雇用確保や市場の育成が可能になるとの政策に依拠している。
目的
「バガン宣言」に基づき、ECSは次のような目的をもっている。
- 国境に沿って、競争力の向上と成長をもたらす
- 比較優位をもった場所に農業と製造業の移転を促進する
- 4か国(ベトナム加盟前)の所得格差を縮小させ雇用機会を創設する
- 平和、安定の向上、および持続的繁栄を達成する
具体的な協力の分野は、次の5分野となる。
- 貿易と投資の促進
- 関係国の比較優位の活用、円滑な物資の流通と雇用創設のための投資の促進、所得増大と社会経済的格差の縮小を実施
- 農業と工業での協力
- インフラ機能、共同生産、マーケティング・購買面の制度、研究開発、情報交換等の改善により協力を促進
- 輸送リンケージでの協力
- 関係国間の輸送リンケージの開発と活用、これにより、貿易、投資、農工業生産、観光を促進
- 観光における協力
- 関係国間の観光協力のための合同戦略の促進、4か国あるいは域外からの観光を促進
- 人的資源開発
- 同地域の人々と制度の開発、人的資源開発(HRD)戦略を開発する方策の策定
ECS行動計画のなかでタイは、2か国間ベースの案件を上記の5分野に関して、カンボジア、ラオス、ミャンマーの間に各々65件、50件、58件提案している。個別の案件のなかには、すでにアジア開発銀行(ADB)を中心とする拡大メコン圏(GMS)関連プロジェクトとして掲げられているものも多い。
基本方針として、輸送リンケージで関係の深い国境間の都市間において姉妹都市協定を結び、主要な箇所に国境経済特別地区や工業団地、農業関連集積地を設けることを想定している。
組織
- 首脳会議(サミット)
- 外相・関連閣僚会議
- 事務局長
- 暫定事務局(Interim Secretariat)
- 国別連絡窓口(National Focal Point)
- 調整委員会(Coordinating Committees)
- ワーキンググループ
メコンにおける地域組織・パートナーシップ
メコン地域は、諸外国の外交施策により、様々な域外勢力が地域組織・パートナーシップを形成してその影響力行使にしのぎを削っている。メコン各国においても、そうした域外諸国から少しでも有利な経済的協力を得ようと工夫を凝らす。
以下は、代表的なメコン地域における地域組織・パートナーシップの一例である。
開始時期 | 略称 | 名称 | 主導国 | 枠組み |
---|---|---|---|---|
1992年 | GMS | 大メコン圏 (Greater Mekong Subregion) | ADB | メコン+中国 |
1995年 | MRC | メコン川委員会 (Mekong River Commision) | UNDP | メコン+中国 |
2000年 | MGC | メコン・ガンジス川協力機構 (Mekong–Ganga Cooperation) | インド | メコン+インド |
2003年 | ACMECS | エーヤーワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略 (Ayeyawady-Chao Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy) | タイ | メコンのみ |
2008年 2009年 | 日本・メコン | 日・メコン外相会議 日本・メコン地域諸国首脳会議 | 日本 | メコン+日本 |
2009年 | LMI | メコン川下流域開発 (Lower Mekong Initiative) | 米国 | メコン+米国 |
2015年 | LMC | 瀾滄江・メコン川協力 (Lancang-Mekong Cooperation) | 中国 | メコン+中国 |

原加盟国
時期 | 状況 | メンバーシップ |
---|---|---|
2003.11.12 | 創設 | カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ |
2004.5.10 | 新規加盟 | ベトナム |
カンボジア王国
ព្រះរាជាណាចក្រកម្ពុជា
Kingdom of Cambodia
- 国土面積は181,035km2 で世界87位、総人口は16,718,971人で世界68位
- 国王を元首とする立憲君主制(選挙君主制)
- 内戦を経て1993年9月24日に王政復古がなされ現在に至る
●首都
プノンペン
ラオス人民民主共和国
ສາທາລະນະລັດ ປະຊາທິປະໄຕ ປະຊາຊົນລາວ
Lao People’s Democratic Republic
- 国土面積は236,800km2 で世界79位、総人口は7,276,000人で世界104位
- 国家主席を元首とする社会主義共和制国家(人民民主共和制)、立法府は一院制の国民議会
- 計画経済から社会主義市場経済に移行したが、国連が定める世界最貧国の一つ。中華人民共和国が主導する経済圏「一帯一路」に参加、「債務のワナ」に陥ることが懸念されている
●首都
ヴィエンチャン
ミャンマー連邦共和国
ပြည်ထောင်စု သမ္မတ မြန်မာနိုင်ငံတော်
Republic of the Union of Myanmar
- 国土面積は676,578km2 (日本の約1.8倍)で世界40位、総人口は54,410,000人で世界26位
- 大統領を元首とする共和制。2021年のクーデターにより、国家行政評議会議長を事実上の国家指導者とする軍事政権に戻った
- 1989年にビルマからミャンマーに国名変更(軍事政権の正統性の観点から併記などの運用の幅あり)
●首都
ネピドー(ネーピードー)
(2006年に旧首都ヤンゴンから移転)
(1989年にラングーンからヤンゴンへ改称)
タイ王国
ราชอาณาจักรไทย
Kingdom of Thailand
- 国土面積は513,120km2(日本の約1.4倍)で世界50位、総人口は6,980万人で世界20位
- 立憲君主制でチャクリー王朝の国王が国家元首。議院内閣制で人民代表院(下院)と、元老院(上院)から成る両院制
- 親軍政党との連立政権だが、2023年8月23日にセーター首相就任で民政復帰


●首都
バンコク
新規加盟国
ベトナム社会主義共和国
Cộng hòa xã hội chủ nghĩa Việt Nam
Socialist Republic of Vietnam
- 国土面積は331,212km2 で世界64位、総人口は1,038万人で世界16位
- 社会主義共和制(ベトナム共産党による一党独裁制)。ベトナム共産党の最高職である党中央委員会書記長(最高指導者)、国家元首である国家主席、政府の長である首相、立法府である国会の議長を「国家の四柱」と呼ぶ
- 1986年12月:社会主義に市場経済システムを取り入れるドイモイ政策を採択、中国の改革開放と同様に市場経済路線へと転換
●首都
ハノイ
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参考リンク
⇩下記、在タイ日本国大使館サイトのリンクは生きている
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