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諸外国における内名(endonym)と外名(exonym)

諸外国における内名(endonym)と外名(exonym) 分類する

内名と外名について

日本については「日本の内名(endonym)と外名(exonym)」で解説を施した。そこでは、国名・地名について、外国に対して外名を、自国民に対して内名を、強制的に変更する(ひとつに統一する)ことの社会的・経済的コストをしのぐだけのメリットがないと、なかなか実行に移せそうにないと推論した。

世界を広く見渡せば、意外に外名(内名)を変更することに成功した事例が散見される。今回は諸外国にまつわる内名と外名のお話をまとめた。

まずおさらいから。

内名ないめい外名がいめいとは、特定の地名・民族名・言語名などを、命名の主体となった民族・言語に内生した呼称と外来の言語における呼称とに区分するときに用いられる。

地名に関する限り、エンドニムは内生地名ないせいちめい、エクソニムは外来地名がいらいちめいと和訳されることもある。

区別内名ないめい外名がいめい
用語エンドニム(英: endonym)エクソニム(英: exonym)
日本(にほん、にっぽん、Nippon)英: Japan(ジャパン)、仏: Japon(ジャポン)
伊: Giappone(ジャッポーネ)

各国の国名・地名にまつわる内名と外名のはなし

ウクライナ

2014年のロシアによるクリミア併合と東ウクライナでの軍事紛争の影響で、ウクライナ当局は、ロシア支配の影響をできるだけ排除したいとの思いを強くした。そこで、正式な国名の「Україна(ウクライィーナ)」のウクライナ語による発音をより正確にしていこうという動きが活発になった。

ちなみに、英語名は「Ukraine」で、発音は「ユークレイン」のままだ。

日本語のカタカタ表記である「ウクライナ」の場合は、「ウクライーナ」に変更したいという働きかけがウクライナ大使館から2019年7月にあった。その後の日本側の有識者会議で日本語表記の「ウクライナ」は変更しない旨が決定された。

但し、地名の方は変更がスルッと通った感じがある。ウクライナの首都は、現在は「キーウ(Kyiv)」と読まれ、ニュース等の報道でも今ではこっちの方が当たり前になってきた。以前はロシア語の発音に基づく「キエフ(Kiev)」だった。

事の経緯はこうだ。2018年10月にウクライナ外務省は「KyivNotKiev」キャンペーンを開始し、2019年6月11日、アメリカ合衆国内務省のアメリカ地名委員会が「Kyiv」表記の標準化を決定した。同委員会が運営する地名のデータベースは国際航空運送協会(IATA)など民間団体も利用しており、IATA加盟航空会社の運航先表記にも影響を及ぼすことになる。

つまり、国際航空便の行き先が「Kiev」改め「Kyiv」となったのだ。この決定はアメリカ連邦政府内文書やアメリカ国内だけにとどまらず国際的な波及をもたらすこととなり、世界中で一気に改められた。そうしないと国際交通網がマヒすることにもなるからだ。

この類の変更は、歴史的事件や歴史的国家の名称をどう考えるか難しい問題にも直面する。筆者は歴史好きなので、「キエフ大公国」とか「ハリコフ攻防戦」というのはその音で脳に染み入っている。今更、「キーウ大公国」「ハルキウ攻防戦」と言い換えてみても何かしっくりとこない(あくまで個人的な感想です)。

ウクライナ
Ukraine

  • 国土面積は603,700km2(日本の約1.6倍)で世界45位、人口は4373万人で世界33位(クリミア含む)
  • 共和制、国家元首は直接選挙による大統領、半大統領制、大統領が任命する首相・閣僚人事は議会の承認が必須、最高議会の一院制
  • 名目国内総生産(GDP)は世界57位(クリミアとセヴァストポリは除く)、購買力平価(PPP)で世界48位(クリミアとセヴァストポリは除く)
ウクライナ Ukraine

●首都
キーウ

ジョージア

現在、ジョージアと呼ばれる国も、2008年、南オセチア紛争といわれる、ロシア連邦がジョージア北部の南オセチアとアブハジアに軍事侵攻があり、両国(両地域)のジョージアからの分離独立を一方的に承認したことを受けて、名称が変わった。

侵攻を受けてロシアと国交断絶したジョージアの要請を受け、日本は、2015年4月までの国名呼称「グルジア(ロシア語: Грузия, Gruziya)」からジョージアへ変更した。政変以外の理由で変更したのはこれがコートジボワールに引き続き2例目となる。

ジョージア(英:Georgia)は、英語由来の外名だが、以前のグルジアもロシア語由来の外名に過ぎない。現ジョージアの内名は、「カルトヴェロ人の地」を意味する「サカルトヴェロ(საქართველო Sakartvelo)」である。

つまり、ロシア語ベースの旧外名から英語ベースの新外名への変更ということだ。但し、「グルジア」と「ジョージア」は、いずれも聖ゲオルギオスに由来する外名という点では同じ語源である。

英語圏では、アメリカ合衆国に属する州として、イギリス国王ジョージ2世の名に由来する「ジョージア州(State of Georgia)」がある。ジョージアの正式な英名(外名)は、単なる「ジョージア(Georgia)」だが、表記分けの都合上、「ジョージア国(Country of Georgia)」と記載されるのが通例となっている。

ここでも世界史の話として、タマル女王(在位:1184 – 1213)が治めた国は、グルジア王国ではなく、ジョージア王国と記載が修正されていくのだろうか?

ジョージア
Georgia

  • 国土面積は、69,700km2(日本の約5分の1)で世界118位、人口は399万人で世界130位(南オセチアとアブハジアを含む)
  • 共和制、国家元首は直接選挙による大統領、大統領が首相を任命して議会の同意を得る、議院内閣制、ジョージア議会の一院制、2015年に日本政府が国名表記をグルジアからジョージアに変更
  • 名目国内総生産(GDP)は世界115位、購買力平価(PPP)で世界114位
ジョージア Georgia

●首都
トビリシ


ジョージア州
State of Georgia

コートジボワール

コートジボワールは、フランス語を公用語にしており、正式国名にもフランス語が採用されて、「レピュブリック・ドゥ・コットディヴワール(仏:République de Côte d’Ivoire)」となる。

République共和国
Côte海岸
d’~の
Ivoire象牙

だから、外来語といえども、公用語にしているわけだから、「レピュブリック・ドゥ・コットディヴワール」が彼らにとっての内名といってもいいだろう。

これに対し、日本における外名として、1960年のコートジボアール独立以来、意訳の「象牙海岸」を用いてきた。

しかし、1985年にフランコフォニー国際機関がフランス語の国名”Côte d’Ivoire”を意訳しないよう求める決議を行い、翌1986年からコートジボアール政府が意訳による外名の使用廃止とフランス語国名の採用を各国に要請した。

それにより、英名は、「Ivory Coast」から仏語の直訳である「Republic of Cote d’Ivoire」に変更された。しかし、現在でも英語の中の国民・形容詞の英語表記は「Ivorian」のままとなっている。このあたりの感覚は、国名が「Nippon」でも、国民・形容詞が「Japanese」のままという感じだろうか。

日本における外名の変更経緯は以下の通り。

  • 1964年 東京オリンピックの開会式で、英語名の”Ivory Coast”を片仮名へ転写した「アイボリーコースト」
  • 1970年 大阪万博では「象牙海岸館」の名称でパビリオンを出展
  • 1986年 コートジボワール政府から日本政府へ外名の変更を要請、外務省大臣官房総務課が内規として定める『国名表』で「象牙海岸」に加え「コートジボワール」も選択表記という形で公文書への使用が可とされる
  • 2003年 在外公館設置法 別表1の改正にて、「象牙海岸」を廃して「コートジボワール」に統一

ちなみに、政体の変革などに伴う変更を別にすれば、これが日本語における国名の標準表記が変更された初めての例となった。

コートジボワール共和国
Republic of Cote d’Ivoire

  • 国土面積は322,436km2(日本の約0.9倍)で世界67位、人口は2887万人で世界53位
  • 共和制、直接選挙で選出される大統領が国家元首で行政府の長、元老院(上院)・国民議会(下院)の二院制
  • 名目国内総生産(GDP)は不明、購買力平価(PPP)も不明
コートジボワール共和国 Republic of Cote d'Ivoire

●首都
ヤムスクロ(法律上)
アビジャン(行政府、経済)

インド

インドが独立したのは1947年のことで、それまではイギリスの植民地(イギリス王がインド皇帝を兼ねる同君連合)だった。インドの名は、英語の「India」から来ているが、そのもとはラテン語の借用⇒古代ギリシア語経由で借用した、インダス川を意味する Indus ⇒ 古代ペルシア語の Hinduš ⇒ サンスクリットの Sindhu とその起源はとても古い。

ちなみに、日本におけるインドの外名は、イラン語群によるインダス川に由来する Hinduka ⇒ 中国で漢字による音訳である 身毒『史記』、天竺『後漢書』、印度(玄奘三蔵)に由来する。中国では唐以降、「印度」が一般的であったが、日本では「天竺」の呼称が使われ続けた(豊臣秀吉の朝鮮出兵時の関連文書に「天竺」が使用)。明治時代以降、西洋で一般的だったインド(印度)に合わせるようになった。

1960年代以来、ヨーロッパを中心とする旧宗主国が第二次世界大戦以前に植民地としていた土地に一方的に命名した外名を排し、現地住民の申し立てに応じた内名を尊重する動きが活発化している。

インドも、内名の「バーラト(Bhārat、ヒンディー語:भारत)」を正式な国名として憲法で制定しており、外名のインドからの置き換えを試みている。2023年のG20サミットでは、インド政府が名札に「Bharat」を使用し、物議を醸したことは記憶に新しい。

1990年代以降のインドでは、ヒンドゥー原理主義が高揚し、その結果としてインド各地ではイギリス植民地時代の外名からの大規模な名称変更が行われた。

  • 1995年 英語: ボンベイ(Bombay)⇒ マラーティー語: ムンバイ(Mumbai, मुंबई)
  • 1995年 英語: ベナレス(Benares)⇒ ヒンディー語: ヴァーラーナシー(Varanasi, वाराणसी)
  • 1996年 英語: マドラス(Madras)⇒ タミル語: チェンナイ(Chennai, சென்னை)
  • 2001年 英語: カルカッタ(Calcutta)⇒ ベンガル語: コルカタ(Kolkata, কলকাতা)
  • 2007年 英語: バンガロール(Bangalore)⇒ カンナダ語: ベンガルール(Bengaluru, ಬೆಂಗಳೂರು)

インド共和国
Republic of India

  • 南アジア随一の面積(世界では7位)と世界第1位の人口を持つ
  • 連邦共和制国家で、世界最大の民主主義国家と呼ばれる
  • 連邦公用語はヒンディー語だが、他にインド憲法で公認されている言語が21ある

イギリス

イギリスの正式名称は、もちろん英語で「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」、略称は「United Kingdom」「UK」「Britain」等である。日本語では、「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」(法律用語)、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」(一般用語)の2つが代表的だ。

日本における内名・・としては、「イギリス」「英国」の方が親和性が高いのではないだろうか? 「連合王国」の文字も目にすることが多いかもしれない。

戦国時代にポルトガル人が来航した際に、イングランドに関連するポルトガル語の形容詞「inglez, inglês(イングレス、イングレシュ)」が語源で「イギリス」となった。江戸時代には、オランダ語の形容詞「engelsch, engels(エンゲルス)」を語源とする「エゲレス」という呼称も広く使用されるようになる。その後、幕末から明治・大正期には「英吉利(えいぎりす)」や「大不列顛(大不列顚、だいふれつてん、大ブリテン)」と漢字表記されることも多く、前者が「英国えいこく」の語源である。これらはもう歴史的に日本語の中で一般的なものと認知されると考えられ、内名と定義される。

ここでいう内名・・とは、「 ユナイテッド・キングダム(United Kingdom)等の外来語を取り入れる前の外来地名を元に成立した、日本語の中で内生化した地名」も含むという意味になる。厳密には、内名は自称(オートニム、英: autonym)とは違うのである。ややこしい。

だから、「イギリス」というのは日本(日本語)にとって内名となるが、UKの住民からすれば「Igirisイギリス」は外名であり、その逆に、「Japan(ジャパン)」が日本(日本語)にとっては外名となるが、UKの英語を話す住民からすれば内名ということになる。

つまり、内名・外名は、話者の言語によって相対的に決まるものであるということが分かる。

イギリス イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland

  • 立憲君主制(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つのカントリー(国)が、同君連合型の単一主権国家を形成)
  • 議院内閣制のモデルとされるウェストミンスター・システム発祥の地、庶民院と貴族院の両院制
  • 名目国内総生産(GDP)は世界5位、購買力平価(PPP)で世界9位

 

イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland

●首都
ロンドン

オランダ

オランダは、正式には「蘭語: Koninkrijk der Nederlanden」「英語: Kingdom of the Netherlands」「オランダ王国」で、アルバ、オランダ、キュラソー、シント・マールテンの4つの国から構成される。一般的には、ライン川下流に位置するオランダとして認識される。ライン川下流域の国は、単に「蘭語: Nederland」「英語: The Netherlands」と呼称され、俗称として「ホラント(Holland)」がある。

英語の Netherlands に定冠詞 the が付くのは、この語が「地の国」「低地地方」を意味する普通名詞由来だから。

ホラント(Holland)は、八十年戦争(オランダ独立戦争)で重要な役割を果たしたホラント州に由来するから固有名扱いで the はつかない。

このホラントという地名が、16世紀の戦国時代に、日本と交流のあったポルトガル語の外来地名 Holanda を由来として日本に入ってきて「オランダ」となった。このオランダは日本語において今やすっかり内生地名化したが、同国の内生地名である「ネーデルラント」は依然、日本人にとっては外来地名である。

日本語におけるこの「オランダ」の内名としての扱いは、「イギリス」と同じである。

日本語としての漢字表記は、和蘭、和蘭陀、阿蘭陀、荷蘭陀 等があり、略語に「蘭」の字が使われる元となった。

例)蘭学者、英蘭戦争など

さて、コートジボワールの英語の中の国民・形容詞の英語表記は「Ivorian」のままという点と、オランダの英語の中の国民・形容詞の英語表記は「Dutch」が使われている点には類似性がある。

「Dutch(ダッチ)」は、元来、西ゲルマン語派の言語話者全員を指していたが、17世紀以降、北海を挟んで交流が多かったオランダ(人、語)を意味するものに変わっていった。ただし、英蘭の歴史的対立関係から、軽蔑のニュアンスが強く、「Netherlander」や「Hollander」が用いられることもあるが、オランダ政府は公式に「Dutch」を使っている。

オランダ政府は、2020年1月1日付で、国名としての「ホラント」の使用廃止を通達した。オランダ外務省も諸外国にこの通称から変更し「ネーデルラント」とするよう働きかけている。しかし、日本のオランダという呼称については、この使用廃止したホラント由来であるものの、日本語の言葉としてすでに定着していることから変更は求めないとしている。

オランダ オランダ王国
Kingdom of the Netherlands

  • 国土面積は、41,864km2 (九州とほぼ同じ)で世界131位、人口は1740万7585人で世界66位
  • 立憲君主制、議院内閣制、第二院と第一院の両院制
  • 名目国内総生産(GDP)は世界17位、購買力平価(PPP)で世界28位
オランダ王国 Kingdom of the Netherlands

●首都
アムステルダム(憲法上)
デン・ハーグ(事実上)

まとめ
  • 外交関係の変化から外名変更を実行した キーウ、ジョージア、コートジボワール、ムンバイ等
  • 外来語由来の外名だったものが現地語に溶け込んで内名化した イギリス、オランダ等

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