計算式
経営レバレッジは、「経営レバレッジ係数」「営業レバレッジ」「事業リスク」という和訳があてられることもある。
(1) \( \displaystyle \bf 経営レバレッジ=\frac{ EBITの前年増加率(%)}{ 売上高の前年増加率(%)} \)
(2) \( \displaystyle \bf 経営レバレッジ=\frac{貢献利益}{EBIT}\)
経営レバレッジは、売上高を1単位増やすことで、どれだけEBITが増えるかの倍率を表したものである。
2期間の利益増減額が入手できる場合は、(1)式が使える。
当期または前期の数値しか使えない場合は(2)式を用いる。
変動費率、固定費発生額 が2期間にわたって不変である場合のみ、(1)式と(2)式の結果は一致する。
- EBIT: Earnings before Interest and Taxes(利息及び税金控除前利益)
- 売上高:本業による財・サービスによる収益
- 貢献利益:売上高 - 変動費
注)「売上高 - 変動費」で得られる利益概念を、「限界利益」「変動利益」と呼ぶ場合もある。ここでは、「貢献利益」を含めてすべて同一のものとして扱う。
定義と意味
固定費は、売上高の増減に関係なく一定である。その一方で、変動費率と貢献利益率は、売上高の増減に対して一定の比率を保持している。
ということは、売上高が10%増えれば、固定費はそのままで、貢献利益は10%増える。
EBITは、固定費を控除後の利益なので、固定費の影響を受けているため、売上高の増減に対して比例関係ではない。よって、売上高と貢献利益の2つは、仮に売上高が変動した場合の固定費との相関関係は同じであると考える。
固定費の増減率は一定 <> 売上高の増減率 = 貢献利益の増減率
CVP分析でも明らかなように、一旦、損益分岐点を上回る収益に到達すると、固定費比率が高い企業は、そうでない企業に比べて、増益率が高くなる。なぜなら、売上高が増えていっても、固定費発生額はそのままなので、売上高1単位当たりの固定費負担額が徐々に小さくなっていくからである。
別の言い方をすると、固定費は、一旦、売上高が損益分岐点を超えると、売上高の増加率より利益の増加率を大きくし、損益分岐点を下回ると、売上高の減少率より利益の減少率を大きくする効果を持つ。
固定費は、売上高が実際に計上される前に支出がすでに決まっているものが大半である。つまり、時間軸で見ると、収益が上がる前の先行投資は固定費である、ということができる。
ここから、先行投資のリスクをとって、売り上げを拡大したいという経営者のビジネスチャンスに賭けた勝率を実際に獲得した(またはできなかった)利益の増分で見るのが経営レバレッジであるともいえる。
よって、経営レバレッジを高くすることは、一般的にハイリスク・ハイリターンであるといえる。
「利益の財務レバレッジ(DFL)」が、負債の活用による「支払利息」という固定費がEBTの増加どれだけ貢献しているかを表すのに対し、「経営レバレッジ(DOL)」は、支払利息を含む全固定費が売上高の増加を経由して、EBITの増加にどれだけ貢献しているかを表す。
解釈と使用法
「経営レバレッジ」は、過去実績をベースに、このままEBITと固定費の相関関係が一定だと仮定して、将来の利益水準がどれくらい望めるかを予測するためのツールとして使用される。
貢献利益率と固定費の関係が一定という仮定が成り立つ間は、当年の「経営レバレッジ」が分かれば、追加的に固定費をいくら増やすと、結果としてEBITがどれくらい増えるかを予想することができる。
これは、将来の増益の可能性とリスクのバランスを見る指標であり、絶対的な固定費水準を示してくれる指標ではない。
それと同時に、業界や市場の成熟度、事業サイクルのポジションによって大きく貢献利益率は異なるため、望ましい「経営レバレッジ」の水準をひとつに決め打ちすることは難しい。
なお、貢献利益は、変動費と固定費の分類データが手元にないと計算不能である。企業外部者が、開示資料から変動費と固定費の区別を知ることは通常のケースでは難しい。
同業他社や、自社の過去実績といったベンチマーク指標と比較して、自社が相対的にどれくらいの事業リスク(固定費をカバーできないほどに売上が減少するリスク)を負っているのかは明らかにすることができる。
逆に、この指標が、同業他社や、自社の過去実績といったベンチマーク指標に対して、小さい値であるにもかからず、同じ程度の利益水準を達成している場合には、もう少し事業リスクを負うことで、さらなる増益を図ることの反作用は小さい可能性がある。
あくまで、現在の負債・支払利息と当期純利益の間の相関関係が同じと仮定し、負債を増やすことで当期利益を最終的にどれくらい増やすことができるかのシミュレーションであるため、相関関係が一定である、という強い仮定が必要である。
現代においてそういう都合の良い市場はもう残されていないのかもしれないが、市場競争がそれほど激しくなく、技術や需要の変動があまり大きくない場合は、この係数による予測の妥当性は高いかもしれない。
より慎重な分析・予測を行いたい場合は、「DOL」に加えて、「DFL: Degree of Financial Leverage(利益の財務レバレッジ) 」と組み合わせた、「DOT: Degree of Total Leverage(総合レバレッジ)」も使うことができる。
シミュレーション
以下に、Excelテンプレートとして、FY14~FY19のトヨタ自動車の実績データをサンプルで表示している。
入力欄の青字になっている「期間」「当期純利益」「法人税等」「支払利息」に任意の数字を入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
上記サンプルのトヨタ自動車は、実際には毎年の変動費率と固定費発生額が異なるため、計算式(1)(2)共に、「経営レバレッジ」の値が毎年一致することはない。かつ、計算式(1)と(2)が各年ごとに一致することもない。
なお、決算開示資料から、貢献利益(変動費と固定費の区別)情報を得ることは難しいため、貢献利益の近似値として、「売上総利益」を代用している。
「経営レバレッジ1」について、FY16とFY17の間で、大きく値がプラスからマイナスに変化する非連続性が観察される。FY16・17と、FY18・19の間で、損益分岐点を大幅にシフトさせるような固定費の支出内容の変化があったことが見受けられる。
直接的に目先の売上高に影響を与えない中長期的なCASEなどをテーマにした先行投資が固定費の額を左右している可能性を見る必要がある。
むしろ、売上高を経由せずに、「経営レバレッジ2」で、直接的にEBITと貢献利益の相関を見たほうが、固定費のレバレッジ効果を確認できるかもしれない。およそ、「1.8」近辺に落ち着いている。
なお、上記の支払利息は、金融セグメントの金融費用としての支払利息を含まない。
参考サイト
同じテーマについて解説が付され、参考になるサイトをいくつか紹介しておく。
[財務諸表分析]比率分析指標の体系と一覧
1 | 財務諸表分析の理論 | 経営分析との関係、EVAツリー |
2 | 成長性分析(Growth) | 売上高・利益・資産成長率、持続可能成長率 |
3 | 流動性分析(Liquidity) | 短期の支払能力、キャッシュフロー分析 |
4 | 健全性分析(Leverage) | 財務レバレッジの健全性、Solvency とも |
5 | 収益性分析(Profitability) | ROS、ROA、ROE、DOE、ROIC、RIなど |
6 | 効率性分析(Activity) | 各種資産・負債の回転率(回転日数)、CCC |
7 | 生産性分析(Productivity) | 付加価値分析、付加価値の分配 |
8 | 市場指標(Stock Market) | 株価関連分析、株主価値評価 |
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