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予算編成の方法論 Methods of Developing the Budget

予算編成の方法論 Methods of Developing the Budget マネジメント
予算編成の方法論 Methods of Developing the Budget

予算編成の方法論 Methods of Developing the Budget

予算編成の方法論としては、予算方針が周知された後に、どういう手続きを経て予算が最終承認されるかでいくつかのパターンに分かれる。どれが最良かという議論は無意味で、各社の実情に合わせて最適なものを選ぶことになる。

  1. 参加型予算編成(Participative Budget):ボトムアップ型予算編成
  2. 権威型予算編成(Authoritative Budget):トップダウン型予算編成
  3. 合議型予算編成(Consultative Budget):ミドルアップ型予算編成/トップ&ボトム・サンドイッチ型予算編成

こういうメリハリをつけた類型化には注意すべき点がいくつかある。

❶これらの予算編成パターンには、それぞれメリット/デメリットが存在する
❷それぞれのパターンは各社の実務の中でファインチューニングがなされ、境界が曖昧になりがち
❸Beyond Budgeting、ローリング予算、アジャイル等、別視点の類型化とは共存するもので対立しない

参加型予算編成 Participative Budget

参加型予算編成(Participative Budget)は、予算編成の関係者が全員が予算編成プロセスに参加して予算を作成する方法である。しばしば、ボトムアップ型(bottom-up)とも呼ばれる。

下位階層のマネジャー、時には一般従業員から予算案に対する知見を集めて、ひとつ上の階層のマネジャーとの折衝を次々と経て、全社予算の取りまとめを行っていく。

一般的なイメージは、機能部門別予算⇨事業部別損益予算⇨全社総合予算(コーポレート予算)というように、❶複数の下位階層組織の予算案を上位のより大きな組織単位の予算案にとりまとめること、❷コストセンターの費用予算とレベニューセンターの収益予算を取り合わせて、プロフィットセンターの損益予算に組み上げ、複数の損益予算を束ねて、インベストメントセンター単位(多くはカンパニーや全社コーポレート単位であることが多い)の総合予算(P/L、B/S、投資、場合によってはC/F・C/Sを含む)へ構成要素を組み上げること、の2種類の統合化がなされるプロセスである。

参加型予算編成のメリット
  • 参加型予算編成は、社内のコミュニケーションデバイスとして良好な機能を発揮する。予算編成作業の準備を進めている中で、シニアマネジャーは、各部署の従業員が直面する諸問題を十分に把握することができる。従業員はその専門部署ごとに優れたプロフェッショナルな知見を有しており、日常業務の中で鍛え上げられた、ハンズオンの業務運営技能を備えている。それと同時に、従業員の方も、トップマネジメントが経験する経営課題に関する理解を深める機会が得られる
  • 参加型予算編成は、下位階層マネジャー・従業員自身が参加して予算案を作り上げるので、予算案が自分事になり、予算達成のための十分なコミットメントが得られる。
  • 参加型予算編成による予算案は、目標達成の可能性が高い。なぜなら、目標達成の責任者である各階層の有識者が自ら参加して作り上げた目標値・予算案であるため、初めから達成不可能な目標設定をすることは非合理的であるからだ
参加型予算編成のデメリット
  • よっぽどシニアマネジャーが適切に予算編成プロセスをコントロールしないと、参加型予算編成で作成された予算案はあまりに低すぎる目標水準に成り下がるか、予算スラック(budgetary slack)を多量に含んだものになってしまう可能性が高い。予算スラックとは、各部単位の費用予算を高めに設定し、かつ収益予算を低めに設定することで、結果として目標とする全社損益予算の水準は下がる一方で、各部署は自組織の目標達成を容易にするという予算編成上の無駄のことである
  • コーポレートの全体戦略や、戦略的計画(中期事業計画など)の骨子を予算案に反映することが難しくなる。なぜなら、参加型予算編成では、予実管理の当事者となる参加者の関心事や利害調整の方が予算案に反映されやすくなるからだ
  • 参加型予算編成は、特に権威型予算編成に比べると、大幅に時間がかかる(time-consuming)プロセスとなりがちである。なぜなら、多数の下位階層マネジャーや従業員の参加を求めるから、各自のスケジュール調整も困難性が高まり、それぞれが利害調整するために交渉が煩雑で多岐にわたるからだ。そのため、予算編成プロセス開始を前倒しする必要があり、当期の実務時間との重複期間がますます長くなるし、時間軸が遠くなる程、将来予測精度も低くなるため、目標達成確立がその分下がることにも繋がる

権威型予算編成 Authoritative Budget

権威型予算編成(Authoritative Budget)は、別名トップダウン型予算編成とも呼ばれ、シニアマネジャー(大抵は取締役会、経営会議や執行役員を指す)が、全社内の全ての組織・階層の予算を決定し、上意下達宜しく、下位組織へは通達の形で周知される。

上から下へのトップダウンの方向は変わらないが、どの下位レベルまでの細分化をシニアマネジャーが決定し得るかについては別の議論がある。

イメージとして、予算統制が厳格で、シニアマネジャーの権限と知見に頼るところ大である場合は、各機能部門やその下の部署単位にまで一律に細分化した予算案・目標値が降ろされることになる。逆に、シニアマネジャーの権限と知見に一定の限界がある場合は、カンパニーや事業部単位までがシニアマネジャーの裁量で予算案を決定し、その後、各カンパニー長や事業部長が所轄組織毎の予算案を下に降ろすという、シニアマネジャー間の分業がなされる場合もある。

権威型予算編成のメリット
  • 権威型予算編成プロセスは、参加型予算編成プロセスに比べると、大幅にシニアマネジャーの意思決定に対するコントロールが容易となる。参加する下位階層マネジャーや従業員との利害調整・交渉が不要となるからだ
  • 権威型予算編成は、予算案に対してトップマネジメントの意思が反映されやすくなる。シニアマネジャーが全社戦略や戦略的計画(中期事業計画など)を予算編成に盛り込みやすくなるからだ
  • 権威型予算編成は、参加型予算編成に比べると、圧倒的に早期化が図れ、柔軟性も高くなる。なぜなら、下位階層マネジャーや従業員との利害調整や交渉の要求や時間を排除することができるからだ
  • 予算スラックの発生は問題にならない。発生源ごとシャットアウトしているため
権威型予算編成のデメリット
  • 下位階層マネジャーや従業員は、権威型予算編成では予算編成実務に携わることがないため、彼らの知見が直接予算編成プロセスに反映されることない。そのため、彼らの知見が予算案に反映されない分だけ、予測精度が落ちていたり、効率性が悪い施策を選択している可能性がある。シニアマネジャーは社内事情の全てに精通する程、万能ではない
  • 下位階層マネジャーや従業員は、権威型予算編成では予算編成実務に携わることがないため、彼らの予算達成に向けたコミットメントが得られにくい。場合によっては、予算案を拒否される場合もある
  • 権威型予算編成で作成された予算案は、社内の各部署へ命令・指示の形で周知される。人というものは、他人から命令されたり指図を受けることを嫌う性質がある。職務忠実性の低下、モチベーション低下に至る場合がある
  • 下位階層マネジャーや従業員とシニアマネジャーやトップマネジメントとの意思疎通の機会が減少するため、社内の風通しが悪くなる、コミュニケーション不足に陥る危険性がある

合議型予算編成 Consultative Budget

合議型予算編成(Consultative Budget)は、参加型予算編成と権威型予算編成の折衷である。シニアマネジャーは、予算案作成にあたり、下位マネジャー(引いては各部署の事情を勘案できる従業員の声も含む)に対して、参考にすべきインプット情報を求める。一般にはこれを予算ヒアリングと呼ぶことが多い。予算ヒアリング後は、シニアマネジャーの判断で、下位階層との合議・交渉をせずに各部署単位までの予算案を決定して周知する。

一般的には、シニアマネジャーとその下位レベルとのコミュニケーションが何往復か発生することが多い。

典型例としては、最初にトップダウンで予算ガイドラインを全社・全部署に周知し、予算ガイドラインに従って、各部が予算ドラフトをシニアマネジャーに提出、予算ドラフトを予算ヒアリングとしての会議体で審議し、最終案がシニアマネジャーの手で最終化された後に全社に周知されるといった手続きを経ることが多い。

あくまで日本風(和風)テイストだが、予算編成でも中間管理職が中心となって意思決定を行い、上司であるシニアマネジャー(取締役会・経営会議・執行役員など)への根回しと、下位階層である各部署の従業員への説得(車座)を行うことで、コミュニケーションと社内の人間関係を円滑なまま納める方式を、中間管理職がリードするという意味で、ミドルアップ型予算編成と呼ぶ。

本来、参加型予算編成と権威型予算編成のメリットを取込み、デメリットの影響を可能な限り排除する目的で折衷型としての合議型予算編成を考え付いた。しかしながら、折衷案は所詮妥協案のところもあり、”帯に短し襷に長し” 、”虻蜂取らず” となる恐れも大きいことには留意すべきである。

合議型予算編成のメリット
  • 下位階層マネジャーや従業員との交渉を廃して、シニアマネジャーが予算案に対する最終判断を下せることから、シニアマネジャーが予算編成プロセスを運用しやすくなる
  • シニアマネジャーがトップマネジメントの意を汲んで、全社戦略や戦略的計画(中期事業計画など)と予算案との統合がやりやすい
  • 予算スラックの発生は問題にならない。発生源ごとシャットアウトしているため
  • 合議型予算編成の所要時間は、参加型予算編成より短縮できる。時間短縮から得られる、将来予測精度の向上、作業効率の向上、現業負荷軽減などのメリットも併せて享受できる
  • 合議によって、下位階層マネジャーや従業員が提案した内容が最終予算案に盛り込まれた場合少なくとも参加型予算編成の場合と同程度の予算目標達成に向けたコミットメントが得られる
合議型予算編成のデメリット
  • 合議型予算編成は、予算ヒアリングにかかる作業負荷の分だけ、権威型予算編成より時間がかかる
  • 合議によって、下位階層マネジャーや従業員が提案した内容が最終予算案に盛り込まれなかった場合、予算案に対して何も提案できなかった権威型予算編成の場合に比べて、心理的な面で、却って予算目標達成に向けたコミットメントが得られなくなる可能性が高い

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