計算手法
税引後利益を目標利益とした場合に、必要販売数量を求めるには、通常2つのステップを必要とする。
❶ 税引後利益を税引前利益に変換する
❷ 税引前利益から必要販売数量を求める
目標利益の計算式
損益分岐点分析(CVP分析)において、費用が固変分解された従来通りのシンプルな利益恒等式は以下のとおりである。
売上高 - 変動費 - 固定費 = 利益
さらに、金額指標を販売数量という物量指標に変換するために、
売上高 = @販売単価 × 販売数量
変動費 = @変動費単価 × 販売数量
目標税前利益 = @目標税前利益単価 × 販売数量
という読み替えを行う。
あわせて、上記の利益恒等式における利益概念は法人税を考慮していない「税前利益」であることを明確に記述すると、
売上高 – 変動費 – 固定費 = 税前利益
(@販売単価 × 販売数量) – (@変動費単価 × 販売数量) – 固定費 = (@目標税前利益単価 × 販売数量)
(@販売単価 – @変動費単価 – @目標税前利益単価) × 販売数量 = 固定費
「@販売単価 – @変動費単価」は、@貢献利益単価 でもあるので、
(@貢献利益単価 – @目標税前利益単価) × 販売数量 = 固定費
\( \displaystyle \bf 販売数量= \frac{~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~固定費~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~}{(@貢献利益単価 - @目標税前利益単価)~~~~~~~~~~~~~~~}~~~~・・・式1\)
これまでの復習になるが、式1 が必要販売数量を@目標税前利益単価で求める基本形になる。
変動費と固定費には法人税が含まれていないため、式1の @税前利益単価 を @税引後利益単価 に手直しするには、一般的に、税引後の値から税引前の値を逆残で求めるグロスアップ計算(詳細説明は後述)を用いる。
●グロスアップ計算
\( \displaystyle \bf 税前利益= \frac{~税引後利益~~~~~}{(1- 実効税率)~~~~~} \)
会社全体の利益でも、取引単位の利益でも同じ利益単価(利益率)であると仮定するならば、このグロスアップ計算は利益単価にも用いることができるため、
\( \displaystyle \bf @税前利益単価= \frac{~@税引後利益単価~~~~~}{~~~~~(1- 実効税率)~~~~~~~~~~} ~~~~~・・・式2\)
式1に式2を代入すると、
\( \displaystyle \bf 販売数量= \frac{固定費}{@貢献利益単価~ – \frac{@税引後利益単価~~~~~}{~~~~(1- 実効税率)~~~~~~~~~~}~~~~~}\)
上記までの一連の作業から、目標利益とされる@税引後利益単価を@税前利益単価に変換後、税前利益ベースの利益恒等式から必要販売数量を求めればよいことになる。
❶ @税引後利益単価を@税前利益単価に変換する ・・・式2
❷ @税前利益単価から必要販売数量を求める ・・・式1
目標利益(税引後利益)を達成するための必要販売数量の計算手順
前章における目標利益の計算式から、以下のシミュレーションプロセスが考えられる。
- 目標税引後
利益の設定単価で目標税引後利益を設定する・販売数量一単位当たりの目標利益を単価情報の形で設定する
- 目標税前利益単価の計算@目標税前利益単価を計算する(グロスアップ計算)
・実効税率を決める(実効税率情報を入手する)
・(1 – 税率)で税引後利益を割り戻すことで算出する - コストの試算目標利益を設定するターゲットビジネスにかかるコストを試算する
・変動費:当該ビジネスの活動量に比例して発生するコスト(単価)
・固定費:当該ビジネスオペレーションの維持・運用の全体にかかるコスト(金額) - 目標販売数量の計算目標利益達成に必要な最低限度の販売数量を計算する
・損益分岐点の公式を使って必要販売数量で解く
シミュレーション
Excelテンプレート形式で目標利益(税引後利益)の計算方法を示す。
入力欄の青字になっている「@目標税引後利益単価」「実効税率」「販売単価」「変動費単価」「固定費発生額」に任意の数字を入力すると、必要販売数量が求められる。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
計算目的と使い方
税引後利益単価についての基本的考え方
目標利益管理プロセスで、最初に @税引後利益単価 から作業をスタートさせていることは、2つの疑問を生じさせる。
ひとつは、@税引後利益単価 は既に固定費(法人税も含む)を内包する概念であるため、目標管理制度において、目標単価設定の値として用いるのに適切かという問いである。
ふたつめは、仮に適切な水準で @税引後利益単価 の目標値を技術的に設定できたとしても、どういうシーンでそれを有効に活用できるかという問いである。
最初の問いに対しては、おそらく、目標管理指標として @税引後利益単価 は恐ろしく有効ではないといわざるを得ない。
なぜなら、@税引後利益単価 は、計算ロジックから自明なのだが、販売数量と固定費の2つが同時に決まらないと一意に定めることができないが、逆に、ひとつの @税引後利益単価 を実現させ得る 販売数量と固定費の組み合わせは無限に存在するからである。
それゆえ、@税引後利益単価 を目標管理制度にて使用する場合には、同時に販売数量か固定費のいずれか、または2つ同時に設定しておく必要がある。
ふたつめの問いに対しては、おそらく、有効に使用できるビジネス環境が著しく限定されるものだと考えられるという答えになるだろう。
取り扱い商材にかかる固定費が著しく少ないため、@貢献利益単価 と @税前利益単価 の差異が極端に小さいと同時に、目標設定の対象とする期間の 実効税率 の予測可能性が極端に高い、という2条件がそろっている必要がある。
この条件は、暗に、次の条件が実現する場合を指している。
●@税引後利益単価を用いた目標利益指標が有効活用できる条件
@貢献利益単価 ≒ @税前利益単価 ≒ (1 – 実効税率[ほぼ定数]) × @税引後利益単価
解説
手取り額から税額を決めるグロスアップ計算
「グロスアップ」とは所定の税引後金額(ネット額)を確保するために必要な税込金額(グロス額)を逆計算する税務で行われている計算方法である。
例えば、海外への出向者給与や、海外人材の日本での受け入れに際して、各国の社会保険制度・税金制度の違いによって手取り額が変わるのを防ぐため、給与支払い対象者がどの国のどの制度が適用されても、手取り額が変わらないようにするために活用される。
手取り額 → 社会保険負担額・納税額 → 実際の支払額
実務的には様々な控除制度が併用されるため、すべての対象となる賦課・控除の計算がなされる必要がある。
管理会計においては、特に金額的影響度の大きい法人税について、観便法として実効税率を用いたグロスアップ計算を適用して、税引後利益から逆残で目標とすべき税前利益やその目標税前利益を達成するための売上高などの諸条件を決めていく際に用いられることが多い。
CVP分析/損益分岐点分析
1 | 固変分解/貢献利益 | 変動費、固定費、貢献利益、固変分解 |
2 | 損益分岐点分析 | 様々な損益モデルで損益分岐点を求める |
3 | CVP分析 | 金額・単価・数量を変数にした損益モデル |
4 | CVP分析フレームワークを用いた意思決定 | 利益最大化を達成するための条件選択方法 |
粗利、変動費、固定費の関係で儲ける会社づくりをストーリー仕立てで理解できる。
管理会計入門書。CVP分析や固変分解の基礎がわかる。
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