17世紀の美術
17世紀の芸術を支配した様式はバロック(仏: baroque)だった。情熱的な動きと感情表現、そして劇的なコントラストに特徴づけられる大胆で演劇的な様式で、芸術や建築を活力あふれるものにした。
ローマに端を発するカトリック教会への賛美から始まったこの様式は、やがてヨーロッパ全土に広がり、主にカトリック教国で隆盛を誇り、ポルトガル・ドイツ・フランスへと広まっていく。
また、カトリック教会の対抗宗教改革(反宗教改革)とも強く関連している。
盛期ルネサンスの壮大さ、威厳、率直さを見直しながら、マニエリスムの情熱的な感情表現等の要素を取り入れた。
イタリア・バロック
イタリア・バロックは、3つの時期に分けられる。初期バロック(1600 – 25頃)、盛期バロック(1625 – 75頃、ベルニーニが活躍した時期に重なる)、後期バロック(1675以降)である。
後期の様式には、18世紀のロココ様式の要素がわずかに見て取れる。
アンニーバレ・カラッチ Annibale Carracci (1560 – 1609)
- 『エジプトへの逃避のある風景』(ca.1604)
アゴスティーノ・カラッチ Agostino Carracci(1557 – 1602)
- 『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』(ca.1592 – 1597)
ルドヴィコ・カラッチ Ludovico Carracci (1555 – 1619)
- 『変容』(1595)
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ Michelangelo Merisi da Caravaggio (1571 – 1610)
- 『聖マタイの召命』(1599 – 1600)
- 『洗礼者聖ヨハネの斬首』(1608)
アルテミジア・ジェンティレスキ Artemisia Lomi Gentileschi (1593 – 1652/53)
- 『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』(1612 – 1613)
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ Gian Lorenzo Bernini (1598 – 1680)
アレッサンドロ・アルガルディ Alessandro Algardi (1598 – 1654)
- 『パオロ・エミリオ・ザッキア枢機卿』(1650年代)
ドメニキーノ Domenichino (1581 – 1641)
- 『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』(1612 – 1614)
グエルチーノ Guercino (1591 – 1666)
- 『アウロラ』(1621)
ジョヴァンニ・ランフランコ Giovanni Lanfranco (1582 – 1647)
- 『復活』(1622)
グイド・レーニ Guido Reni (1575 – 1642)
- 『アウローラ』(1612 – 1614)
ピエトロ・ダ・コルトーナ Pietro da Cortona (1596 – 1669)
- 『神の摂理』(ca.1633 – 1639)
サルヴァトル・ローザ Salvator Rosa (1615 – 1673)
- 『猟師と戦士のいる岩山の風景』(ca.1670)
カルロ・ドルチ Carlo Dolci (1616 – 1686)
- 『悲しみの聖母』(1650)
ベルナルド・ストロッツィ Bernardo Strozzi (1581 – 1644)
- 『ガラスの花瓶の花と棚の上の果物の静物画』
ジョヴァンニ・バッティスタ・ガウリ Giovan Battista Gaulli (1639 – 1709)
- 『イエスの名の勝利』(1674)
ルカ・ジョルダーノ Luca Giordano (1634 – 1705)
- 『オリンポス山の雲の中のメディチ家の勝利』(1684 – 1686)
アンドレア・ポッツォ Andrea Pozzo (1642 – 1709)
- 『サンティニャーツィオ教会の天井画』(1685 – 1694)
アダム・エルスハイマー Adam Elsheimer (1578 – 1610)
- 『バウキスとピレモンの家のユーピテルとメルクリウス』(1608)
フランソワ・デュケノワ François Duquesnoy (1597 – 1643)
- 『聖アンデレ』(1629 – 1633)
ヘリット・ファン・ホントホルスト Gerrit van Honthorst (1592 – 1656)
- 『牢獄から解放される聖ペテロ』(1616 – 1618)
フランス・バロック
フランスは17世紀の間にヨーロッパ最強国家となり、芸術でもイタリアと覇を競うようになった。イタリアでは主に宗教画にバロック様式を見たが、フランスでは国王ルイ14世を称えるために利用された。ヴェルサイユ宮殿はバロック様式の偉大な記念碑でもある。
シモン・ヴーエ Simon Vouet (1590 – 1649)
- 『若さと美に打ち負かされる時間の翁』(1627)
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール Georges de La Tour (1593 – 1652)
- 『新生児 (聖誕)』(ca.1648)
ル・ナン3兄弟
アントワーヌ・ル・ナン Antoine Le Nain (ca.1588 – 1648)
ルイ・ル・ナン Louis Le Nain (ca.1593 – 1648)
マチュー・ル・ナン Mathieu Le Nain (1607 – 1677)
- 『農民の家族』(ca.1642)
フィリップ・ド・シャンパーニュ Philippe de Champaigne (1602 – 1674)
- 『1662年の奉納画』(1662)
ニコラ・プッサン Nicolas Poussin (1594 – 1665)
- 『我アルカディアにもあり (アルカディアの牧人)』(ca.1637 – 1638)
- 『ポリュペーモスのいる風景』(1649)
クロード・ロラン Claude Lorrain (ca.1605 – 1682)
本名 クロード・ジュレ Claude Gellée
- 『シバの女王の乗船』 (1648)
シャルル・ル・ブラン Charles Le Brun (ca.1619 – 1690)
- 『アレクサンドロス大王とポロス王』(1673)
ピエール・ピュジェ Pierre Paul Puget (1620 – 1694)
- 『クロトンのミロン』(1671 – 1682)
イアサント・リゴー Hyacinthe Rigaud (1659 – 1743)
- 『ルイ14世の肖像』(1701)
スペイン・バロック
17世紀のスペインは、政治的勢力は大きく減退したが、芸術は華々しく開花した。バロック様式は、信仰心深い国民性に相応しいものだった。
当時のスペインでは、ディエゴ・ベラスケスが最も偉大な芸術家とされ、その作品はバロック芸術の誇張された表現を含むが、常に自然主義的な趣向をはらんでいた。
フアン・マルティネス・モンタニェース (1560 – 1609)
- 『慈悲のキリスト』(1603 – 1606)
フアン・サンチェス・コタン Juan Sánchez Cotán (1560 – 1627)
- 『マルメロの実、キャベツ、メロン、胡瓜』(ca.1602)
フランシスコ・デ・スルバラン Francisco de Zurbarán (1598 – 1664)
- 『聖フランチェスコ』(1650 – 1660)
ホセ・デ・リベーラ José de Ribera (1591 – 1652)
- 『聖フィリポの殉教』(1639)
ディエゴ・ベラスケス Diego Velázquez (1599 – 1660)
- 『インノケンティウス10世の肖像』(1650)
- 『アラクネの寓話』(ca.1657)
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ Bartolomé Esteban Murillo (1617 – 1682)
- 『ベネラブレスの無原罪の御宿り』 (ca.1678)
アロンソ・カーノ Alonso Cano (1601 – 1667)
- 『聖ヨハネと毒入りの聖杯』(ca.1635 – 1637)
クラウディオ・コエリョ Claudio Coello (1642 – 1693)
- 『聖体の秘儀』(1685 – 1690)
フアン・デ・バルデス・レアール Juan de Valdés Leal (1622 – 1690)
- ヴァニタス『束の間の命』 (1670/1672)
アレイジャディーニョ Aleijadinho (ca.1738 – 1814)
アントニオ・フランシスコ・リスボア Antônio Francisco Lisboa
- 『アッシジの聖フランシスコ教会』(1766 – 94)
フランドル・バロック
15世紀以降、伝統ある美術を守ってきたネーデルラント地方であったが、北部オランダはプロテスタント国としてスペインから独立する一方、南部フランドル地方はスペイン統治とカトリック教会の支配下に留まった。
フランドルでは宗教的主題が主流となり、ルーベンスのように祭壇画・物語を描いた画家の他、風景・動物・花などを専門とする画家も登場した。
ピーテル・パウル・ルーベンス Peter Paul Rubens (1577 – 1640)
- 『オレイテュイアを略奪するボレアス』(ca.1615)
- 『聖母被昇天』(1625 – 1626)
アンソニー・ヴァン・ダイク Anthony van Dyck (1599 – 1641)
- 『ジョン・ステュアート卿と弟バーナード・ステュアート卿の肖像』(ca.1638)
ヤーコブ・ヨルダーンス Jacob Jordaens (1593 – 1678)
- 『画家の家族』(1621 – 1622)
フランス・スナイデルス Frans Snyders (1579 – 1657)
- 『果物を盗む3匹の猿』(1640年代)
アドリアーン・ブラウエル Adriaen Brouwer (1605/6 – 1638)
- 『居酒屋の農民の喧嘩』(1630)
ヤン・ブリューゲル(父) Jan Brueghel de Oude (1568 – 1625)
- 『花』(1606/7)
ダフィット・テニールス (子) David Teniers de Jonge (1610 – 1690)
- 『レオポルト・ヴィルヘルム大公のブリュッセルの画廊』(1651)
オランダ・バロック
ネーデルラント諸州の独立戦争である八十年戦争(1568年から1648年)の終わりから17世紀(オランダ黄金時代)を中心に、オランダ黄金時代の絵画と呼ばれる。バロック絵画の典型的な特徴である対象の理想化や壮麗な画面構成が少なく、伝統的な初期フランドル派から引き継いだ細部にわたる写実主義の影響を強く受けている。
宗教画・歴史画・肖像画より、風俗画・風景画・都市景観画・静物画などの多彩な主題による作品が多いことが特徴である。
フランス・ハルス Frans Hals (1581/85 – 1666)
- 『1616年の聖ゲオルギウス市民警備隊士官の宴会』 (1616)
- 『微笑む騎士』 (1624)
レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン Rembrandt Harmenszoon van Rijn (1606 – 1669)
ヘリット・ダウ Gerrit Dou (1613 – 1675)
- 『水腫の女』(ca.1663)
ヤン・リーフェンス Jan Lievens (1607 – 1674)
- 『ラザロの復活』(1631)
カレル・ファブリティウス Carel Pieterszoon Fabritius (1622 – 1654)
- 『ゴシキヒワ』(1654)
ヘンドリック・アーフェルカンプ Hendrick Avercamp (1585 – 1634)
- 『スケーターのいる冬景色』(ca.1608)
ヤン・ファン・ホイエン Jan Josephszoon van Goyen (1596 – 1656)
- 『渡し舟のある夕方の川の風景』(1643)
アールト・ファン・デル・ネール Aert van der Neer (1603/04 – 1677)
- 『月夜の橋』(1648 – 1650)
ヤン・ボト Jan Dirksz. Both (ca.1618 – 1652)
- 『小径を行く旅人のいる風景』
ニコラース・ベルヘム Nicolaes Berchem (1620 – 1683)
- 『市の城壁の外の凍った運河』
ヤン・ファン・デ・カペレ Jan van de Cappelle (1626 – 1679
- 『本国の港で礼砲を撃つオランダ艦隊』(1650)
ヤコブ・ファン・ロイスダール Jacob Izaakszoon van Ruisdael (1628/29 – 1682)
- 『前景に漂白場のある、北西からのハールレムの眺め』(1670年代)
メインデルト・ホッベマ Meindert Hobbema (1638 – 1709)
- 『ミッデルハルニスの並木道』(1689)
アルベルト・カイプ Aelbert Cuyp (1620 – 1691)
- 『騎馬人物と農民のいる川辺の風景』(1650年代後半)
アドリアーン・ファン・オスターデ Adriaen van Ostade (1610 – 1685)
- 『魚市場』(ca.1659)
ハブリエル・メツー Gabriël Metsu (1629 – 1667)
ウィレム・ファン・デ・フェルデ2世 Willem van de Velde de Jonge (1633 – 1707)
- 『オランダの港への入り口』(ca.1665)
ヤン・ステーン Jan Steen (1625/26 – 1679)
- 『贅沢に気をつけよ』(1663)
ヘラルト・テル・ボルフ2世 Gerard ter Borch (1617 – 1681)
- 『ミュンスターにおけるウェストファリア条約締結の儀』(1648)
ピーテル・デ・ホーホ Pieter de Hooch (1629 – 1684)
- 『デルフトの家の中庭』 (1658)
ヤン・フェルメール Johannes Vermeer (ca.1632 – 1675)
ウィレム・クラース・ヘダ Willem Claesz. Heda (1593/94 – ca.1682)
- 『蟹のある朝食』 (1648)
ヤン・フィッツ・デ・ヘーム Jan Davidsz. de Heem (ca.1606 – 1683/84)
- 『静物』
ウィレム・カルフ Willem Kalf (1619 – 1693)
- 『ロブスター、角笛杯、グラスのある静物』(ca.1653)
ラッヘル・ライス Rachel Ruysch (1664 – 1750)
- 『森に咲く花の静物』 (ca.1690)
イギリス・バロック
芸術を愛したチャールズ1世が数多くの外国生まれの芸術家達を宮廷に呼び寄せて制作活動を行わせた。
グリンリング・ギボンズ Grinling Gibbons (1648 – 1721)
- 『ペットワース ハウスの彫刻』
ウィリアム・ドブスン William Dobson (1611 – 1646)
- 『リチャード・ネヴィル』
ピーター・レリー Sir Peter Lely (1618 – 1680)
- 『フランセス・テレサ・ステュアートの肖像』(ca.1662 – 1665)
「ウィンザー・ビューティ」中の一枚
ゴドフリー・ネラー Sir Godfrey Kneller, 1st Baronet (1646 – 1723)
- 『アイザック・ニュートン』(1689)
- 『ジョン・ロック』(1697)
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