計算式
経営資本営業利益率とは、営業利益を経営資本で割り算して求められる。経営資本に占める営業利益の構成割合を示す。計算結果は経営資本に対する利益率を意味するので、一般的には、この値が高いほど収益性が高いという評価がなされる。
経営資本は、本業たるビジネスに投下されている事業資産と同義である。貸借対照表(B/S)の借方・貸方の関係(貸借関係)からすれば、経営資本=事業資産 であるとの前提に立てば、日本語で「事業資産営業利益率」と表現されていても指標は同値と考えて差し支えが無い。
経営資本営業利益率を英語では標題のもの以外に「Business capital operating income ratio」「Ratio of operating profit to operating capital」等と呼ぶ。
経営資本に占める割合(構成比率)を百分率で表すのが一般的であるから、単位には専ら「%」が用いられる。
\( \displaystyle \bf 経営資本営業利益率 = \frac{営業利益}{総資産-(建設仮勘定+投資その他の資産)} = \frac{営業利益}{経営資本} \)
例
経営資本 400
営業利益 60
\( \displaystyle \bf 経営資本営業利益率 = \frac{60}{400} = 15.0\% \)
P/L項目、ここでは利益額が1年未満の期間におけるものの場合は、年平均値に換算する必要がある。月次利益ならば12倍、単四半期利益ならば4倍する。
B/S項目、ここでは経営資本(=事業資産)には、平均残高(平残)を用いる。平均残高は、期首期末の平均値であり、(期首残高+期末残高)÷2 で求める。
仮に、利益が単四半期の場合、経営資本も同じ単四半期の期首期末の値を用いて平均残高を計算する必要がある。年平均残高は用いない。
- 営業利益:本業からの利益。売上高から売上原価と販管費を差し引いた利益
- 経営資本:本業へ投下された資本
- 経営資本 = 総資産 -(投資その他の資産 + 建設仮勘定)
定義と意味
経営資本営業利益率は、企業が本業に投下した資本(=資産)がどれだけの営業利益を生み出したかを示す。
営業利益は本業からの利益でもあることから、経営資本をベースにすれば、分子分母の対応がきちんと整合する資本利益率(資産利益率)であることが分かる。
下図は、経営資本と営業利益の対応関係をP/LとB/Sを併記して表したものである。
建設仮勘定はいずれ有形無形固定資産として事業資産へ組み込まれる予定のものであるが、この時点ではまだ実際の経営に活用されていないため、事業活動に投下されていないとみなす。
投資その他の資産は、専ら待機資産として投資有価証券などの形で運用されているもので、そのリターンは営業外収益として、営業利益の下の経常利益の段階で損益計算書(P/L)に計上されるものである。
一般的に、営業利益は「本業からの利益」と定義づけされている。本業に投下される資産は、事業資産(事業投下資本、経営資本)となり、営業利益の稼得のために活用される資産である。
そのため、営業利益と、営業利益を生み出すために使用された事業資産(営業資産、事業投下資本、経営資本)の範囲に概念的に対応させた利益概念を用いて、資本利益率(=資産利益率)を表示した方が都合がよいという考え方に即したものとなる。
- 事業資産/経営資本:本業たる事業に投下された資産/資本
- 売上債権、棚卸資産、有形無形固定資産など
事業資産は、やがて売上高と形を変え、経費を控除した後に営業利益の形でリターンとして企業に帰ってくる。
事業資産 ➡ 売上高 ➡ 営業利益 ➡ 事業資産へ再投資 ➡ 次の売上高 …
このことから、営業利益に対応する事業資産(経営資本)を用いた利益率を選択することは、事業資産に対する投資収益性を評価する場合の素直な選択だともいえる。
経営資本営業率はROEにおけるデュポンツリーの如く、いくつかの指標に細分化することで、財務指標と経営の打ち手との関連性をより密接に表現することもできる。
\( \displaystyle \bf 経営資本営業利益率 = \frac{営業利益}{経営資本} = \frac{営業利益}{売上高} \times \frac{売上高}{経営資本} = 売上高営業利益率 \times 経営資本回転率 \)
資本利益率を、売上高利益率と資本回転率に分解する方法は、「総資本営業利益率」「総資本経常利益率」に詳細を解説してあるのでそちらを参照頂きたい。
総合商社・持株会社のように、営業利益に持分法利益等を加味した事業利益で本業の収益性を測る企業もある。その場合、分子の事業利益にきちんと対応するよう、分母の経営資本には持分法適用会社への「投資」または「関連会社株式」の金額を加えるなどの実態に即した工夫が必要になる。なお、繰延資産も同様に、経営実態に応じて経営資本に算入するか否かを判断したい。
解釈と使用法
経営資本営業利益率は、経営資本(事業資産)に対する営業利益の比率であり、比率が高いほど投資収益性(投資効率)が高くなることが分かっている。
という傾向にあることは分かっている。
とはいえ、「経営資本営業利益率」を構成する「売上高営業利益率」と「経営資本回転率」の水準は、採用されているビジネスモデルに大きく影響される。
業界ごとの利益水準はもとより、その業界に課せられている資本コストも様々であることから、一応、業種ごとの平均値をとりあえずのベンチマーク指標とすることの意義は大きいといえる。
2021年度『法人企業統計』から、経営資本営業利益率の概算値を算出した。
計算式は下記の通り。
\( \displaystyle \bf 経営資本営業利益率 = \frac{営業利益}{\left(\frac{当期末経営資本+前期末経営資本}{2}\right)} \)
\( \displaystyle \bf 経営資本 = 資産合計 – (建設仮勘定+株式+公社債+その他の有価証券+その他投資) \)
コード | 業種 | 経営資本 営業利益率 (%) | 売上高 営業利益率 (%) | 経営資本 回転率 (回転) |
---|---|---|---|---|
158 | 純粋持株会社 | 15.43 | 62.08 | 0.25 |
106 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 10.69 | 20.93 | 0.51 |
116 | 石油製品・石炭製品製造業 | 10.10 | 5.78 | 1.75 |
160 | 職業紹介・労働者派遣業 | 9.58 | 4.44 | 2.16 |
161 | 学術研究、専門・技術サービス業(集約) | 9.46 | 15.20 | 0.62 |
115 | 化学工業 | 9.14 | 9.60 | 0.95 |
145 | 情報通信機械器具製造業 | 8.91 | 7.64 | 1.17 |
142 | 情報通信業 | 7.52 | 8.58 | 0.88 |
122 | 電気機械器具製造業 | 7.15 | 6.46 | 1.11 |
121 | 生産用機械器具製造業 | 6.29 | 6.02 | 1.04 |
124 | 業務用機械器具製造業 | 6.22 | 6.41 | 0.97 |
154 | はん用機械器具製造業 | 6.17 | 6.95 | 0.89 |
126 | その他の製造業 | 5.89 | 5.83 | 1.01 |
108 | 製造業 | 5.78 | 5.16 | 1.12 |
118 | 鉄鋼業 | 5.71 | 4.84 | 1.18 |
143 | その他のサービス業 | 5.63 | 5.06 | 1.11 |
119 | 非鉄金属製造業 | 5.34 | 4.46 | 1.20 |
107 | 建設業 | 4.93 | 3.88 | 1.27 |
138 | 広告業 | 4.71 | 2.43 | 1.94 |
117 | 窯業・土石製品製造業 | 4.52 | 4.95 | 0.91 |
109 | 食料品製造業 | 4.16 | 2.91 | 1.43 |
104 | 全産業(除く金融保険業) | 3.95 | 3.74 | 1.05 |
123 | 自動車・同附属品製造業 | 3.91 | 2.90 | 1.35 |
120 | 金属製品製造業 | 3.81 | 4.07 | 0.94 |
152 | 医療、福祉業 | 3.74 | 2.93 | 1.28 |
112 | 木材・木製品製造業 | 3.73 | 3.46 | 1.08 |
113 | パルプ・紙・紙加工品製造業 | 3.68 | 3.51 | 1.05 |
146 | 輸送用機械器具製造業(集約) | 3.59 | 2.78 | 1.29 |
128 | 小売業 | 3.47 | 1.97 | 1.76 |
129 | 卸売業・小売業(集約) | 3.45 | 1.85 | 1.87 |
127 | 卸売業 | 3.43 | 1.77 | 1.94 |
132 | 水運業 | 3.41 | 2.95 | 1.16 |
130 | 不動産業 | 3.37 | 11.05 | 0.30 |
144 | 非製造業 | 3.30 | 3.20 | 1.03 |
137 | サービス業(集約) | 3.12 | 3.74 | 0.84 |
159 | その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 3.01 | 3.81 | 0.79 |
155 | 不動産業、物品賃貸業(集約) | 2.77 | 8.85 | 0.31 |
153 | 教育、学習支援業 | 2.76 | 2.84 | 0.97 |
136 | ガス・熱供給・水道業 | 2.63 | 2.33 | 1.13 |
151 | その他の物品賃貸業 | 2.57 | 3.94 | 0.65 |
125 | その他の輸送用機械器具製造業 | 1.32 | 1.50 | 0.88 |
149 | 物品賃貸業(集約) | 0.92 | 2.70 | 0.34 |
150 | リース業 | 0.75 | 2.44 | 0.31 |
114 | 印刷・同関連業 | 0.62 | 0.62 | 1.01 |
110 | 繊維工業 | 0.15 | 0.17 | 0.88 |
135 | 電気業 | -0.07 | -0.10 | 0.68 |
131 | 陸運業 | -0.13 | -0.20 | 0.67 |
134 | 運輸業、郵便業(集約) | -0.15 | -0.20 | 0.72 |
141 | 娯楽業 | -0.64 | -0.95 | 0.67 |
133 | その他の運輸業 | -1.06 | -1.42 | 0.75 |
101 | 農業、林業 | -2.12 | -2.38 | 0.89 |
105 | 農林水産業(集約) | -2.23 | -2.39 | 0.93 |
157 | 生活関連サービス業、娯楽業(集約) | -2.27 | -2.73 | 0.83 |
103 | 漁業 | -2.66 | -2.43 | 1.09 |
140 | 生活関連サービス業 | -4.10 | -4.04 | 1.01 |
139 | 宿泊業 | -12.19 | -25.06 | 0.49 |
156 | 宿泊業、飲食サービス業(集約) | -14.01 | -18.06 | 0.78 |
148 | 飲食サービス業 | -14.85 | -16.33 | 0.91 |
ランキング下位の売上高経常利益率がマイナスの業種は、いち早く、コロナ禍からの悪影響を脱して、正常状態に回復してもらわないと分析できない。
経営資本営業利益率は、売上高営業利益率と経営資本回転率に分解できるため、この種の業種別データの解析の王道としては、以下の2つが存在する。
❶経営資本営業利益率の高低が業種ごとに遍在する要因分析
❷要素分解した売上高営業利益率と経営資本回転率の分布分析
今回は❷について着目して、「バブルチャート」を眺めると、定石通り、右肩下がりの曲線を観察することができる。
「広告業」「流通業」などは薄利多売型の低マージン・高回転のビジネスモデル、一方で、「純粋持株会社」「鉱業、採石業、砂利採取業」「学術研究、専門・技術サービス業」などは、高付加価値型の高マージン・低回転のビジネスモデルを採用していることが分かる。
2021年度の上位ランキングは以下の通り。
順位 | 業種 | 経営資本 営業利益率 (%) | 売上高 営業利益率 (%) | 経営資本 回転率 (回転) | ビジネスモデル類型 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 純粋持株会社 | 15.43 | 62.08 | 0.25 | 高付加価値型 |
2 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 10.69 | 20.93 | 0.51 | 高付加価値型 |
3 | 学術研究、専門・技術サービス業(集約) | 9.46 | 15.20 | 0.62 | 高付加価値型 |
4 | 情報通信業 | 7.52 | 8.58 | 0.88 | 中間型 |
5 | 製造業 | 5.78 | 5.16 | 1.12 | 中間型 |
2021年度は概ね、高付加価値型のビジネスモデルの採用業種優位に動いた感がする。
しかし、「鉱業、採石業、砂利採取業」は天然資源を中心としたインフレの影響が、「情報通信業」は、ウィズコロナ下の新規需要をうまく捉えた成果が功を奏した模様だ。
シミュレーション
以下に、Excelテンプレートとして、FY16~FY21の任天堂の実績データをサンプルで表示している。
入力欄の青字になっている「期間」「売上高」「営業利益」「建設仮勘定」「投資その他の資産」「総資産」に任意の数字・文字を入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
総資産は総資本へテンプレート内で読み替えている。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
趨勢分析の観点から、一見して収益性は右肩上がりで堅調であるといってよい。ビジネス規模の拡大との同時達成であるから、利益ある成長の教科書的な展開である。
FY21の経営資本回転率の悪化を起因とする経営資本営業利益率の低下の原因は、「総資本経常利益率」の「シミュレーション」にて詳細を解説しているのでそちらを参照頂きたい。
投資収益性の堅調な伸びは、指数で表示した際の営業利益と経営資本の伸び率の違いに大きく表れている。
FY16の売上高を100とした場合、FY21の売上高指数は347と3.5倍弱の伸び、営業利益に至っては、指数2,019と20倍の伸びだ。一方で、経営資本の伸びは、指数180と1.8倍に増えているだけだ。
趨勢分析(トレンド分析)は、実数を折れ線グラフで表現して毎期の業績を追っかけてもよいが、どうしても前年対比だけでは大きな流れを把握することは難しい。その場合は、指数表示によるファンチャートを活用したい。
参考サイト
同じテーマについて解説が付され、参考になるサイトをいくつか紹介しておく。
[財務諸表分析]比率分析指標の体系と一覧
1 | 財務諸表分析の理論 | 経営分析との関係、EVAツリー |
2 | 成長性分析(Growth) | 売上高・利益・資産成長率、持続可能成長率 |
3 | 流動性分析(Liquidity) | 短期の支払能力、キャッシュフロー分析 |
4 | 健全性分析(Leverage) | 財務レバレッジの健全性、Solvency とも |
5 | 収益性分析(Profitability) | ROS、ROA、ROE、DOE、ROIC、RIなど |
6 | 効率性分析(Activity) | 各種資産・負債の回転率(回転日数)、CCC |
7 | 生産性分析(Productivity) | 付加価値分析、付加価値の分配 |
8 | 市場指標(Stock Market) | 株価関連分析、株主価値評価 |
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