計算式
従業員平均年齢は、現在勤務している従業員の平均年齢を測定する指標である。
単純平均値であるから、全従業員の年齢の総和を従業員数で割り算することで求められる。
\( \displaystyle \bf 従業員平均年齢= \frac{従業員年齢の総和}{従業員数} \)
この指標の単位は単純に「歳」となる。
例
従業員年齢の総和 287(=18+22+28+30+33+34+37+40+45)
従業員数 10人
\( \displaystyle \bf 従業員平均年齢= \frac{287}{10} = 28.7 歳 \)
上記の例では、計算結果としての平均値に小数部分が含まれているとしても、あくまで満年齢の平均であり、月齢は無視されている。例えば、18歳6か月とか、18.5歳など。
1年未満の月齢の平均は0.5歳または6ヶ月とすれば、上記の例の28.7歳は、0.5歳を加えた29.2歳が推計値としてより適切かもしれない。しかし、統計的には、日本では4~9月生まれの方が1~3月生まれより多いので、この推計法がどこまで有効かも定かではない。一番厳密なのは、月齢も含めた平均値を求めることである。
財務分析における生産性分析の領域で平均年齢を取り扱うという範囲・程度ならば、最初から平均年齢データを採取することも想定しておきたい。
各種政府統計や調査会社データの利用も考えられるが、有価証券報告書の「従業員の状況」において、報告会社(親会社、いわゆる単体)に限られているが、従業員平均年齢がそのまま掲載されている。
なお、類似の指標として、「従業員平均勤続年数(Employee Average Service Years)」がある。
定義と意味
従業員平均年齢は、その企業で働く人の平均年齢であるから、どれだけの習熟度や人生経験を有した人材が業務にあたっているか、積極的に新人を採用することでどれだけ人材に積極的な先行投資をしているかを測るひとつの指標となる。
ESG投資の一翼を担っている人的資本開示・人的資本経営が標榜されている昨今、こうした人的資本関連の指標分析にも改めて注目が集まってきている。
「生産性分析」「Productivity Ratio」でも、労働生産性の詳細な分析に用いられる指標のひとつでもある。
資本生産性でも、固定資産の耐用年数によるビンテージ評価があるように、人材にもかけた年数分の付加価値がきちんと発揮されているのかを測るために、従業員の平均勤続年数に併せて平均年齢も分析するに足る指標である。
従業員平均年齢を単独で見る場合には、平均年齢自体の高低が、
❶従業員の習熟度が適正に管理されているか
❷従業員の定着率は適正に管理されているか
❸人事の新鮮度(新人の採用・教育・ローテーション、世代交代)が適正に管理されているか
を間接的に推し測る指標としての使い方が多い。但し、一概に平均年齢が低いから(高いから)という機械的な判断をすることは難しい。
そのため、従業員平均年齢のデータは、それ以外のインプット指標やアウトプット指標と組み合わせて理解することが多い。
インプット指標としては、教育費と組み合わせて、「人・歳」単位の教育費の推移をみたり、平均給与との相関を分析したりする。
アウトプット指標としては、「一人当たり売上高」「一人当たり利益」「労働生産性」等と組み合わせて、「人・歳」単位の指標に組み替えて分析したりする。
解釈と使用法
ここでは、アウトプット指標と組み合わせて、労働生産性分析の補足指標としての分析手法を確認することとする。
例として、「一人当たり売上高」を採り上げる。一人当たり売上高の計測単位は「円/人」となる。
\( \displaystyle \bf 一人当たり売上高 = \frac{売上高}{従業員数} \)
これは、従業員の人数当たりのアウトプットとしての売上高を見るものである。
全従業員の業務知識や創意工夫の元はそれまでの人生にかけた年齢の分だけ増えていくという仮定に立てば、全従業員の業務知識や創意工夫の総数は、全従業員の年齢の総和を代理変数として置くことができる。
\( \displaystyle \bf 年齢の総和当たり売上高 = \frac{売上高}{全従業員の年齢の総和} \)
但し、「全従業員の年齢の総和」という単位もイメージが湧きにくく、直感だけでは掴めない。この単位を全従業員数で割ると、従業員当たりの平均年齢となる。「平均年齢当たりのアウトプット(ここでは売上高)」とすれば、まだイメージが湧きやすい。
\( \displaystyle \bf 年齢の総和当たり売上高 = \frac{売上高}{全従業員の年齢の総和} = \frac{\left(\frac{売上高}{従業員数}\right)}{\left(\frac{全従業員の年齢の総和}{従業員数}\right)} = \frac{一人当たり売上高}{従業員平均年齢} \)
この時の単位は、いうなれば「円/人・歳」ということになる。「円/人・歳」という計量単位はあまりなじみがなく親和性も低いかもしれない。よって計算式や単位より割り算の概念の方から理解を進めるとよい。
ここから、一般化すれば、一人当たり指標を従業員平均年齢で割り算することで、一人当たり指標を、年齢単位当たり指標に置き換えることができることが分かる。
これにより、以下のように要点をまとめることができた。
❶従業員平均年齢単独の指標としては、その良否を簡単に評価することが難しい
❷アウトプット指標やインプット指標と組み合わせることで、平均年齢(従業員年齢)を相対評価しやすくなる
❸一人当たり指標を平均年齢で割り算すると、年齢当たり指標が簡単に求められる
以上のことを前提に、アウトプット指標と組み合わせた従業員平均年齢指標は、
ということができる。
なお、インプット系指標を用いれば、上記の良否の判断は真逆となることは言うまでもない。
シミュレーション
以下に、Excelテンプレートとして、FY17~FY22の神戸物産(単体)の実績データをサンプルで表示している。
入力欄の青字になっている「期間」「売上高」「経常利益」「従業員数」「平均年齢」「平均勤続年数」「平均年間給与」に任意の数字を入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
これらの値は、EDINETにて公開されている有価証券報告書から取得したものである。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
有価証券報告書から客観的データを取得するために、連結ベースではなく、報告会社単位(親会社、単体)ベースの数値となっている。
従業員平均年齢の単純な推移だけでは分析意図が掴みにくいため、生産性分析として、アウトプット指標から「売上高」「経常利益」、インプット指標から「給与」を併せて採用した。
神戸物産(単体)の「歳当たり売上高」の推移は、平均年齢の上昇と軌跡を一にしている。あたかも、商品開発や売り場構築は、”経験年数がモノを言う”、を地で行くような変化を見せた。
もちろん、その可能性も捨てがたいが、一般論的には、人的資本投資が結実するまでには長いタイムラグが生じるのが常識とされている。素早い対応力が信条の販売業であっても、ベテランや専門家の採用直後に、すぐさま結果に結びつけることは存外難しい。
可能性としては、そうした習熟人材を含めたM&Aに成功した場合等が考えられる。
同じくアウトプット系指標として、「歳当たり経常利益」の推移もまた独特の軌跡を描いている。
短期的な売上変動を意に介さず、堅調に右肩上がりの成長を見せている。これはグループ企業ともども、親会社単体であっても利益ある売上成長の過程にあることをまざまざと見せつけている。
結果として、平均年齢が上がる採用を継続していても、利益伸長が続いていることが非常に稀有な自己強化ループに入っていることを示している。
「歳当たり給与」は観察期間中において、W字を描いている。これは、ベテラン勢の新規採用に当たって、単純な年功制をとっていないことの証左である。それは、FY21からFY22にかけて、平均年齢が下がったにもかかわらず、歳当たり給与が上がったことから判明している。
これが、例え、前年若しくは当年前半の高業績によるボーナス支給の影響だとしても、単純な年功序列からくる硬直的な人事処遇をとっていないことが仄かに示されているのだということは推測できる。
参考サイト
同じテーマについて解説が付され、参考になるサイトをいくつか紹介しておく。
[財務諸表分析]比率分析指標の体系と一覧
1 | 財務諸表分析の理論 | 経営分析との関係、EVAツリー |
2 | 成長性分析(Growth) | 売上高・利益・資産成長率、持続可能成長率 |
3 | 流動性分析(Liquidity) | 短期の支払能力、キャッシュフロー分析 |
4 | 健全性分析(Leverage) | 財務レバレッジの健全性、Solvency とも |
5 | 収益性分析(Profitability) | ROS、ROA、ROE、DOE、ROIC、RIなど |
6 | 効率性分析(Activity) | 各種資産・負債の回転率(回転日数)、CCC |
7 | 生産性分析(Productivity) | 付加価値分析、付加価値の分配 |
8 | 市場指標(Stock Market) | 株価関連分析、株主価値評価 |
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