計算手法
損益分岐点販売数量(Breakeven Volume)は、固定費発生額を貢献利益単価で割り算することで求めることができる。
ただし、いきなり固定費を貢献利益単価で割った商がどうして損益分岐点販売数量になるのか理解しにくいところがあるため、営業利益の計算式からこの公式を導くことにする。
営業利益の計算式から
売上高 - 変動費 - 固定費 = 営業利益
(@販売単価 × 販売数量) - (@変動費単価 × 販売数量) - 固定費 = 営業利益
(@販売単価 - @変動費単価) × 販売数量 - 固定費 = 営業利益
@貢献利益単価 × 販売数量 - 固定費 = 営業利益
売上高と変動費は、単価×数量 の形で表すことができる。
さらに、販売単価と変動費単価の差は貢献利益単価であるため、売上高と変動費をまとめて貢献利益単価と販売数量の積で表すことができる。
この式を販売数量で整理すると、
@貢献利益単価 × 販売数量 = 固定費 + 営業利益
\( \displaystyle \bf 販売数量= \frac{固定費 + 営業利益}{@貢献利益単価\,\,\,\,\,\,\,\,\,}\)
損益分岐点販売数量(販売数量BEP)とは、営業利益がゼロとなる販売数量のことを示すので、この式の営業利益にゼロを代入すると、
\( \displaystyle \bf 販売数量_{BEP}= \frac{固定費 + 0}{@貢献利益単価\,\,\,\,\,\,\,\,\,}\)
\( \displaystyle \bf 販売数量_{BEP}= \frac{固定費}{@貢献利益単価\,\,\,\,\,\,\,\,\,}\)
損益分岐点売上高が既知の場合は
既に損益分岐点売上高が分かっている場合は、損益分岐点売上高を販売単価で割り算した商が損益分岐点販売数量となる。
元来、売上高とは、販売単価×販売数量 で表すことができる。
売上高 = @販売単価 × 販売数量
このことから、上式の左辺である「売上高」が「損益分岐点売上高(売上高BEP)」であった場合、
売上高BEP = @販売単価 × 販売数量
\( \displaystyle \bf 販売数量= \frac{売上高_{BEP}}{@販売単価}\)
となる。
改めて、販売数量を求めたい「損益分岐点販売数量(販売数量BEP)」として、上式を書き直すと、
\( \displaystyle \bf 販売数量_{BEP}= \frac{売上高_{BEP}}{@販売単価}\)
という風に書き表すこともできる。
一般的には、損益分岐点売上高と損益分岐点販売数量が共に未知で、貢献利益や固定費情報から導き出したいケースが多いと考えられるため、固定費法に基づく計算プロセスを下記にまとめる。
固定費法(営業利益の計算方式から導くやり方)においては、
①貢献利益単価
②固定費発生額
の2つの変数が分かると、その割り算で損益分岐点販売数量が求まることが分かる。
- 貢献利益単価貢献利益単価を求める
・(販売単価 – 変動費単価) から求める
- 固定費情報固定費発生額の情報を入手する
・原価標準、見込の策定、実績の把握等により、固定費発生額の情報を入手する
- 損益分岐点損益分岐点販売数量を求める
・固定費を貢献利益単価で割り算する
注)「@貢献利益単価」という記述法は、単価の意味を表すものが記号「@」と言葉「単価」で重複している。しかし、文章を一目見てイメージしやすいように表記方法をわざとだぶらせている
シミュレーション
Excelテンプレート形式で貢献利益の計算方法を示す。
入力欄の青字になっている「販売単価」「変動費単価」「数量」「固定費発生額」に任意の数字を入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
このシミュレーションからわかることは、
①売上高、変動費、貢献利益、固定費、営業利益の金額とその構成比
②損益分岐点販売数量
の2つである。
なお、固定費が貢献利益を上回り、営業利益がマイナスになった場合でもグラフ表示が可能になっている。
ただし、貢献利益がマイナスになった場合はグラフは崩れて見えてしまう。
(貢献利益がマイナスの場合、売れば売るほど赤字が膨らむことを意味するため、グラフの適正表示を斟酌する前に、そもそも貢献利益がマイナスになることの回避策を考える方が優先すると考える)
計算目的と使い方
予算編成や経営計画(販売計画・生産計画)、製商品販売許可の稟議の際に、目標(予算)販売数量と変動費・固定費から想定される実際の営業利益を導くことができる。
また、実際の販売数量が損益分岐点販売数量の左に出て営業損失になっているか、右に出て営業利益をきちんと稼いでいるかを知ることができる。
この営業利益計算方式は、全部原価計算方式ではなく、直接原価計算方式による貢献利益をベースにした利益計画の立案とレビューを行うのに適している。
なぜなら、現場は、いくら販売できるのかと、いくらの固定費を使ってしまったかを、常に比較衡量しながら、損益分岐点販売数量と目標販売数量(または実際販売数量)の相対的位置を見比べてつつ、利益目標の達成度合いの推移を見ながら、販売数量と固定費の執行を調整することができるからである。
解説
損益分岐点販売数量から乖離した時にできること
上記のExcelテンプレートで、入力できる変数は、すべて損益分岐点販売数量をコントロールできる変数である。
①販売単価
②変動費単価
③販売数量
④固定費発生額
上記の営業利益P/Lグラフは、4つの変数の調整結果をP/L形式で確認することができる。
上記の損益分岐点販売数量グラフは、損益分岐点販売数量との相対的位置を把握しながら、4つの変数を調整することができる。
そのため、期中の損益管理には、動的に操作可能な損益分岐点販売数量グラフの有用性が高い。
現在時点の実際販売数量が、損益分岐点販売数量より左に位置するときには、営業赤字になっている。
これを営業黒字に持っていくためには、主に2つのアプローチがある。
- 実際販売数量を損益分岐点販売数量の右に出るようにする
- 損益分岐点販売数量を下げる(損益分岐点販売数量を実際販売数量の左に出るようにする)
ここでは、簡略化のため、損益分岐点販売数量 を BEP と表し、管理可能な変数とアプローチの組み合わせから、ポリシーミックスを整理すると、
BEPを 下げる | 実際販売数量を BEPの右に出す | |
---|---|---|
①販売単価 | ↑ | |
②変動費単価 | ↓ | |
③販売数量 | ↑ | |
④固定費発生額 | ↓ |
つまり、BEPを下げるためには貢献利益率の向上(改善)、BEPを上回る実際売上高を達成するには拡販(物量の増大)が必要になる。
貢献利益率の向上は、販売単価を上げるか、コストダウンによって実現する。
意外に損益分岐点売上高の計算方法の解説はよく目につくが、それをどうやって目標利益の達成のために使いこなすかの解説は不足がちのような気がする。
決算説明会や巷でよく聞く、マーケティング戦略の展開による「値上げ」、構造改革による「コストダウン」や、大口顧客の獲得による「拡販」の達成等は、損益分岐点販売数量グラフの構造が頭に入っていると、それらの施策が利益目標達成にどのような経路で働きかけていることになるのか、より会社施策の理解が深まるものと考える。
CVP分析/損益分岐点分析
1 | 固変分解/貢献利益 | 変動費、固定費、貢献利益、固変分解 |
2 | 損益分岐点分析 | 様々な損益モデルで損益分岐点を求める |
3 | CVP分析 | 金額・単価・数量を変数にした損益モデル |
4 | CVP分析フレームワークを用いた意思決定 | 利益最大化を達成するための条件選択方法 |
粗利、変動費、固定費の関係で儲ける会社づくりをストーリー仕立てで理解できる。
管理会計入門書。CVP分析や固変分解の基礎がわかる。
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