計算式
営業CF対固定負債比率は、営業CFを固定負債で割り算して求める。1年以上にわたり支払わなければならない長期借入金や社債などに対して、その返済原資として想定される営業CFが何倍の規模だけ確保されているのかを示す。固定負債に対する営業CFの相対的大きさから、企業の長期的な返済能力を見る指標のひとつである。
日本語では「営業CF対長期負債比率」「固定負債営業CF比率」「長期負債営業CF比率」等と呼んでもほぼ同じ意味となる。
この指標の単位は「%」または「倍」で、企業が返済義務を負っている固定負債の額が、営業CFでどれだけ返済可能かを示す。この比率が高いほど、足下の返済能力の高さを意味するため、経営体質の安定性の目安となる。
であるから、この比率が大ききれば大きいほど、
❶返済能力が高い
❷現在の固定負債の返済までの安全性が高い
❸固定負債の積み増し余力がある
ことを示す。
\( \displaystyle \bf 営業CF対固定負債比率=\frac{営業CF}{固定負債} \)
例
営業CF 120
固定負債 30
\( \displaystyle \bf 営業CF対固定負債比率 = \frac{120}{30} = 400.0\% または 4倍 \)
C/F項目、ここでは営業CFが1年未満の期間におけるものの場合は、年平均値に換算する必要がある。月次CFならば12倍、単四半期CFならば4倍する。
B/S項目、ここでは”固定負債” には、平均残高(平残)を用いる。平均残高は、期首期末の平均値であり、(期首残高+期末残高)÷2 で求める。
仮に、CFが単四半期の場合、固定負債も同じ単四半期の期首期末の値を用いて平均残高を計算する必要がある。年平均残高は用いない。
ちなみに、分子分母を取り換えると、固定負債を営業CFだけを用いて完済するために必要な返済期間を表す指標となる。類似指標に、有利子負債と営業CFを用いた「債務償還年数」がある。
また、固定負債(長期負債)を流動負債(短期負債)に置き換えれば、「営業CF対流動負債比率」という指標になる。
定義と意味
固定負債は1年以上にわたって返済義務が生じる他人資本であるから、これを返済せずに債務不履行となれば、いわゆる企業倒産扱いとなり、企業存続が非常に危うくなる。長期負債の償還期限を迎えた際に、社内に償還に備えた金額が返済目的で既に確保されていれば、償還時のキャッシュフローに頼る必要はない。
しかしながら、できるだけ資本効率を上げるために、予め償還期限が分かっている長期債務に対して、全く手つかずの資金(余資)として、B/Sの借方に計上しておくのは好ましくない。
最低でも、年間の営業CFがどれくらいの額になるか予想が付けば、少なくとも、償還時点から1年前までは、その期間の年間営業CFの額程度は、他の資金用途に振り分けておいても債務償還の心配はない。
固定負債(長期負債)の償還のための資金効率を最大限に発揮するためにも、こうした指標によって、償還(返済)の時期と備えておくべき資金量の予測を立てやすくする工夫が必要になる。
解釈と使用法
ベンチマークとしての使用法
営業CF対固定負債比率は、固定負債の大きさと営業CFの相対的大きさの比較から、債務償還能力や財務安定性を評価するものであるから、ある閾値や業界平均値などを参考にベンチマークを定めて良し悪しを判断することが多い。
それゆえ、下記のようにベンチマークとの相対的位置から財務安定性を評価する。一般的に、経験則的にいわれているベンチマークとしての適正値は、細かく業界ごとの事情を勘案する前ならば、上場企業としての企業規模を前提にすると、一律「60%」程度ならば健全であると考えられている。
業界平均値の分析
2021年度『法人企業統計』から、営業CF対固定負債比率の概算値を算出した。
これは歴史のある企業統計制度だが、残念ながら、非上場企業も含まれる統計でもあることから、キャッシュフロー関連情報は直接は考慮されておらず、超概算値となるが、計算式は下記の通りでランキングを作成した。
\( \displaystyle \bf 営業CF対流動負債比率 = \frac{営業CF}{\left(\frac{当期末固定負債+前期末固定負債}{2}\right)} \)
- 営業CF = 当期純利益+減価償却費総資産-(現預金除く当期末流動資産-現預金除く前期末流動資産-当期末流動負債+前期末流動負債)
●業種別サマリ版ランキング
コード | 業種 | 営業CF対固定 負債比率(%) |
---|---|---|
160 | 職業紹介・労働者派遣業 | 43.0 |
108 | 製造業 | 31.7 |
142 | 情報通信業 | 27.3 |
107 | 建設業 | 19.9 |
129 | 卸売業・小売業(集約) | 18.5 |
143 | その他のサービス業 | 17.3 |
153 | 教育、学習支援業 | 16.4 |
136 | ガス・熱供給・水道業 | 16.2 |
104 | 全産業(除く金融保険業) | 15.6 |
152 | 医療、福祉業 | 14.8 |
105 | 農林水産業(集約) | 13.8 |
106 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 13.4 |
144 | 非製造業 | 12.2 |
138 | 広告業 | 11.2 |
159 | その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 11.0 |
161 | 学術研究、専門・技術サービス業(集約) | 10.6 |
158 | 純粋持株会社 | 10.5 |
137 | サービス業(集約) | 10.4 |
134 | 運輸業、郵便業(集約) | 9.1 |
155 | 不動産業、物品賃貸業(集約) | 8.6 |
157 | 生活関連サービス業、娯楽業(集約) | 6.3 |
135 | 電気業 | 6.0 |
156 | 宿泊業、飲食サービス業(集約) | 5.1 |
●業種別ランキング
コード | 業種 | 営業CF対固定 負債比率(%) |
---|---|---|
122 | 電気機械器具製造業 | 59.2 |
145 | 情報通信機械器具製造業 | 46.6 |
154 | はん用機械器具製造業 | 46.0 |
124 | 業務用機械器具製造業 | 43.1 |
160 | 職業紹介・労働者派遣業 | 43.0 |
115 | 化学工業 | 32.6 |
132 | 水運業 | 32.4 |
123 | 自動車・同附属品製造業 | 31.7 |
108 | 製造業 | 31.7 |
121 | 生産用機械器具製造業 | 31.5 |
113 | パルプ・紙・紙加工品製造業 | 31.5 |
146 | 輸送用機械器具製造業(集約) | 29.7 |
151 | その他の物品賃貸業 | 28.4 |
117 | 窯業・土石製品製造業 | 28.2 |
126 | その他の製造業 | 28.0 |
142 | 情報通信業 | 27.3 |
119 | 非鉄金属製造業 | 26.5 |
109 | 食料品製造業 | 26.4 |
103 | 漁業 | 26.1 |
120 | 金属製品製造業 | 22.7 |
116 | 石油製品・石炭製品製造業 | 22.1 |
118 | 鉄鋼業 | 21.4 |
127 | 卸売業 | 20.8 |
114 | 印刷・同関連業 | 20.3 |
107 | 建設業 | 19.9 |
129 | 卸売業・小売業(集約) | 18.5 |
143 | その他のサービス業 | 17.3 |
125 | その他の輸送用機械器具製造業 | 17.2 |
153 | 教育、学習支援業 | 16.4 |
136 | ガス・熱供給・水道業 | 16.2 |
112 | 木材・木製品製造業 | 16.1 |
149 | 物品賃貸業(集約) | 15.9 |
104 | 全産業(除く金融保険業) | 15.6 |
128 | 小売業 | 15.5 |
150 | リース業 | 15.0 |
152 | 医療、福祉業 | 14.8 |
105 | 農林水産業(集約) | 13.8 |
106 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 13.4 |
144 | 非製造業 | 12.2 |
101 | 農業、林業 | 11.8 |
138 | 広告業 | 11.2 |
159 | その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 11.0 |
161 | 学術研究、専門・技術サービス業(集約) | 10.6 |
158 | 純粋持株会社 | 10.5 |
137 | サービス業(集約) | 10.4 |
148 | 飲食サービス業 | 10.1 |
134 | 運輸業、郵便業(集約) | 9.1 |
141 | 娯楽業 | 8.9 |
155 | 不動産業、物品賃貸業(集約) | 8.6 |
110 | 繊維工業 | 7.3 |
133 | その他の運輸業 | 6.8 |
131 | 陸運業 | 6.8 |
130 | 不動産業 | 6.7 |
157 | 生活関連サービス業、娯楽業(集約) | 6.3 |
135 | 電気業 | 6.0 |
156 | 宿泊業、飲食サービス業(集約) | 5.1 |
140 | 生活関連サービス業 | 2.3 |
139 | 宿泊業 | -3.9 |
新型コロナ禍の影響が強い「宿泊業」は未だ概算営業CF値がマイナスのため、正当に評価できていない。
主に、類似指標である「営業CF対流動負債比率」との目立った差分についてコメントする。
「営業CF対流動負債比率」ではランキング下位にあった「流通業」「建設業」が、「営業CF対固定負債比率」では、ランキング上位に来る。これは、棚卸資産や売上債権など、流動資産を多く抱える業種は、それに相対する流動負債の割合が、固定負債より大きい傾向にあることに起因するランキング変動である。
また、第1次産業や「医療、福祉業」が、「営業CF対固定負債比率」では、ランキングを下げたことは、これらの業種の負債構成が流動負債に偏っていることが要因として考えらえる。それは、裏返せば、多額の設備投資を必要とせず、どちらかというと労働集約的な産業であることを示している。
シミュレーション
以下に、Excelテンプレートとして、FY16~FY21のトヨタ自動車の実績データをサンプルで表示している。
入力欄の青字になっている「期間」「営業CF」「固定負債」に任意のデータを入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
基本的に、営業CF対固定負債比率は、割り算の商であるから、分子の営業CFが大きくなれば比率も比例的に大きくなり、分母の固定負債が大きくなれば比率は反比例的に小さくなる。
一時的にFY17では固定負債額が対前年で縮んだものの、その後は、CASE関連による投資拡大の波が押し寄せたことにより、右肩上がりで固定負債が膨張していっている。
新型コロナ禍にあっても、その勢いは止まらなかった。よって、新型コロナ禍の影響で、営業収益が低迷した中にあり、営業CFが縮小した間は特に、営業CF対固定負債比率の悪化(下落)には厳しいものがあった。
業績が回復基調にあるとはいえ、コロナ前まで営業CFが回復していないことも加え、営業CF対固定負債比率はここ数年来、低迷を続けている。この指標に限っていえば、トヨタ銀行の財務体質にマイナス要素の影がさしかかっているといわざるを得ない。
参考サイト
同じテーマについて解説が付され、参考になるサイトをいくつか紹介しておく。
[財務諸表分析]比率分析指標の体系と一覧
1 | 財務諸表分析の理論 | 経営分析との関係、EVAツリー |
2 | 成長性分析(Growth) | 売上高・利益・資産成長率、持続可能成長率 |
3 | 流動性分析(Liquidity) | 短期の支払能力、キャッシュフロー分析 |
4 | 健全性分析(Leverage) | 財務レバレッジの健全性、Solvency とも |
5 | 収益性分析(Profitability) | ROS、ROA、ROE、DOE、ROIC、RIなど |
6 | 効率性分析(Activity) | 各種資産・負債の回転率(回転日数)、CCC |
7 | 生産性分析(Productivity) | 付加価値分析、付加価値の分配 |
8 | 市場指標(Stock Market) | 株価関連分析、株主価値評価 |
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