マクロ社会とマクロ準社会
社会システム構造論はマクロ社会学の一分野である。マクロ社会学は、マクロ社会とマクロ準社会を研究対象とする。
系列 | マクロ社会 | マクロ準社会 |
---|---|---|
社会集団系列 | 家族、親族、企業、官庁、国家 | 劇場の観衆、市場、国民社会 |
地域社会系列 | 村落、都市、国民社会 | 民族、国際社会 |
ミクロ社会は個人行為のレベルで捉えられるのに対し、マクロ社会は個人行為のレベルを超えた実在である。
区分 | 分析対象 |
---|---|
ミクロ社会 | 個人による欲求充足のための行為 |
マクロ社会 | 社会システムによる機能的要件充足のための行為の集合体 |
マクロ社会には単一の意志は存在しないが、マクロ社会にもそれ自体の構造やメカニズムがあり、時間の経過の中で変動する事実がある。
マクロ社会の構造やメカニズム、マクロ社会の変動を認識するための概念が「社会システム」である。
社会システム
相互依存しあい機能的に関連しあっている諸要素の集合体が、外部環境に対して境界内の恒常性を維持しているものを「システム」という。
構成要素が個々人の行為であるシステムを「社会システム」という。
社会学には従来から「社会機械論」と「社会有機体論」とが存在していた。ここに、システム論の分野から順に、「ホメオスタシス理論」「サイバネティクス」「一般システム理論」「オートポイエシス理論」が導入され、社会システムの制御メカニズムを理論化していった。
❶ システムの構成諸要素は相互依存しあい、それにより因果関係の無限の循環的波及がある
「社会機械論」の系譜。ミクロ経済学のワルラスによる「一般均衡理論」をパレートが『一般社会学概論』で社会学に持ち込んだ。
❷ システムの各部分の諸機能が、全体としてのシステムの機能的ワーキングに貢献している
「社会有機体論」の系譜。生命体が持つ独自のメカニズムが社会システムの説明にも当てはめられると考える。機能主義とも呼ばれる。
- スペンサー
- デュルケーム
- ドクリフ=ブラウン
- パーソンズ
❸ システムは環境に対して適応し、境界内の恒常性を維持するためのコントロール・メカニズムを発展させている
「ホメオスタシス理論」「サイバネティクス」により付加された洞察。ベルタランフィーの「一般システム理論」が機械と生物有機体と社会システムとの同形性という考え方を提供したことで、社会学の中で、「社会機械論」と「社会有機体論」の橋渡しがなされた。
- パーソンズ:「境界維持システム」
- ルーマン
❹ 自己組織化、オートポイエシス、および自己準拠
自己再組織化の概念は、「サイバネティクス」がそれまでの「負のフィードバック」(逸脱を匡正してシステムの恒常性を維持する)のコントロール・メカニズムに加えて、「正のフィードバック」(逸脱を増幅してシステムをより高次の構造に導く)のメカニズムに着目するようになったことに始まる。
- バックレイ:形態維持(morphostasis)に対する形態生成の概念を提示
- パーソンズ:社会システムは変革する主体と変革される主体が同一である➡「自己準拠」
人間が社会を形成する理由は、
[必要条件] 人間の欲求が極めて高度であり、単独では必要な欲求充足を成し得ないから
[十分条件] 言語により、他者との高度に複雑な意思伝達と協同ができるから
社会を個々人の単純な集合体ではなく、「社会システム」として認識するということは、複数個人の諸行為の相互関連の結果として、個々の行為要素にはないひとつの全体特性(創発特性)を作り出している事実に着目することと同義である。
●用語の整理
システム問題:システムが環境から課せられた課題
機能的要件:解決してシステムの存続を可能にするために充足されなければならない必要諸条件
機能分析:ある社会システムが、様々な下位システムの活動の結果として、どのように機能的要件を充足し得ているか/充足できていないかに着目する分析
社会システム分析:社会システムの働きを、成員個々人の欲求や行為には還元できないものとして、個人レベルではなくシステム・レベルで説明することを目指す社会のマクロ分析
社会システムは人間行為のシステムである。人間個体の生命とは独立に、社会システムはそれ自身の機能的要件の充足に依存した持続の要件を持っているが、社会システムがその時その時の「システム問題」を解決するために、システムの構造をどのように変えていく必要があるかを判断し(自己組織化)、これを実現していくのは、システムを構成している個人の行為である。社会システム理論は、このことを説明するための理論である。
社会集団と組織
社会集団と組織は、地域社会(都市と村落)とともに、社会構造分析の中心部分を成す。それらの社会構造は、近代化の過程で大きな社会変動を遂げてきた。
「社会集団」:複数の行為者間に相互行為の持続という社会関係が形成され、諸行為者の間に「内」と「外」とを区別する共属感情が形成されているとき、諸行為者は社会集団を構成している
「組織」:社会集団を構成する諸行為者の間に共通目的が共有され、当該集団を形成することがその共通目的を達成するための手段であることが意識され、その共通目的の達成のために分業関係に基づいた協働行為のネットワークが確立され、それらの協働行為が制度化された権力によってコントロールされている場合、そのような社会集団を組織という
社会集団は基礎集団と目的集団に区分される。家族以外の基礎集団は、今日の近代産業社会ではほとんど解体された。
「基礎集団」:人間が個体として生活を維持し、かつ種として存続していくのに不可欠で基礎的な欲求充足に関わる多機能な集団。人類発祥と共に誕生した、家族、親族、氏族、宗族、同族など
「目的集団」:特定目的を達成するために意図的につくられた集団。原則として一つの目的に対して単機能。国家や宗教組織のように、古代にまで遡れるものもあるが、大半は、官庁、軍隊、政党、圧力団体、企業、労働組合、学校、学会、病院など、近代になってから大量発生した。
目的集団の多くは、組織を形成している。
近代社会の社会構造の主要な構成要素は、❶家族、❷学校、❸企業 の3つである。
市場
市場は経済的交換が行われる場所であるが、売買には買い手と売り手の間の信頼関係が前提となっているため、経済的交換にも信頼関係という社会関係が伴っていなければならない。
「市場」:国民社会的規模において形成された経済的交換のネットワーク
ゲマインシャフト関係:相互行為は社会的交換として意識されない
例:母親にとって乳児の世話はサービスの一方的転移であり、如何なる反対給付も乳児に要求しない
ゲゼルシャフト関係:交換のバランスが問題視される相互行為
経済的交換:貨幣を媒介(シンボル)にして財と財を交換
社会的交換:価値の共有や価値の制度化を前提に社会財を交換
ただし、消費者がヤマダデンキでソニーのテレビを買う場合、消費者と特定の売り子の関係は一時的でも、消費者⇔ヤマダデンキ(販売店信頼)、消費者⇔ソニー(ブランド信頼)、ヤマダデンキ⇔ソニー(取引先信頼)という信頼・安心・安全という社会財の交換の姿としては長期的な関係となる。
つまり、経済的交換にも社会的交換が伴っていなければならない。
このことは、経済的交換には、ホモ・エコノミクスのみならず、ホモ・ソシオロジクスのモデルを必要とする側面があることを意味する。
市場と企業(組織)の関係
存外、市場と企業の境界線は曖昧である。労働市場の場合、無期限の正規雇用のケースでは、新卒一括採用時点を過ぎれば、外部労働市場と企業組織内部は一見して途絶しているように見受けられる。
しかし、企業内における配置転換や昇進・昇格を通じた熟練形成は、企業組織内に労働市場が入り込んでいると見ることができる。
また、取引コスト概念がロナルド・コースやオリバー・ウィリアムソンによって研究された。
取引コストが最も最小化となる最適な取引と組織の線引きを決める問題は、ある特定の仕入先との市場取引を残すか、垂直的統合で企業に取り込むか、下請け企業として企業グループの傘下に入れるか、選択の余地を企業に与えるという意味で、市場と企業組織の線引きな流動的でかつ一義的ではないことが分かる。
都市と村落
「地域社会」:生活上の基礎的な欲求充足に関わる持続的な相互行為(社会関係)が日常生活においての共同テリトリーの上に集積し、同時に共属意識が伴っているもの
社会関係の集積と共属意識の2点において、地域社会は社会集団と同じだが、一定領域の土地との結びつき、という点で社会集団とは異なる。
一方で、生活上の基礎的な欲求充足に関わる点において、地域社会は基礎集団と共通している。地域社会と基礎集団を合わせたものを「基礎社会」と定義する。
「基礎社会」:「血と地」(Blut und Boden)によって形成される社会。「基礎」は、血縁社会も地縁社会も人類の発祥と共に古くて普遍的である所から。
社会集団 | 地域社会 | |
機能集団 | 基礎集団 | 村落、都市 |
企業、官庁 | 家族、親族 | |
基礎社会 |
- 未開社会
- 部族社会
- 文明社会
- 村落
- 都市
- 大量人口
- 高密度化
- 異質性
- 国民社会
●用語の整理
「アーバニズム」:大量人口、高密度化、異質性
「都鄙連続体説」:人口・人口密度・異質性も数量概念で程度の問題なため、都市と村落を截然と二分することはできない
「都市結節機関」:近代産業社会において、都市に人口が集まる要因となる、工場・事務所・行政・学校・マスコミ・娯楽などの諸機関
全体社会として国民社会は、近代国民国家の成立とともに始まった。
国家の拡大の軌跡は、
未開社会における部族 → 都市国家 → 都市国家中心の小国家(春秋戦国時代の諸侯)→ 粗放国家(古代ローマ帝国、秦漢帝国)→ 封建国家(領邦、藩)→ 近代国民国家
人間は土地の上に定住する動物で、原始以来、地域社会を形成してきた。地域社会は都市と村落に分かれる。近代においては、まず産業化、次いで情報化が都市化を推進してきた。他方で、地域社会における全体社会の範囲は近代化とともに拡大し、現在では国民社会の範囲をすでに超えつつある(国際社会、EUやASEANのような地域ブロック)。
社会階層
●用語の整理
「社会階層」:全体社会において、諸社会的資源ならびにその獲得機会が不平等に分配されている社会構造状態。社会階層は複数の階層的地位からなる
「階層」:階層的地位を共通にする人々の集まり
「社会移動」:個々人が階層の境界を超えて階層的地位を変えること
「社会的資源」:全ての人々の欲望の対象で、その供給が相対的に稀少であるため、それらを多く獲得している人々と、少ししか獲得していない人々が分化しているような、物的・関係的・文化的対象の総称
「物的資源」:所得、財産
「関係的資源」:権力、威信(尊敬・名誉)
「文化的資源」:教育、教養(学問・学芸)
所得地位、権力地位、教育地位など、個別的階層地位が複数あることから、社会階層は多次元的な概念であることが分かる。
人類が余剰資源を持たなかった原始社会段階では、まだ社会階層間の不平等を生ずる余地は少なかったり、結果として社会階層も明確ではなかった。
しかし、農業社会になると、土地が主要な生産手段となったため、土地支配の構造が階層構造を決定するようになった。土地支配の構造は、士農工商や農奴制のように、身分制によって世襲され、獲得機会の不平等を制度化していただけでなく、社会移動の可能性まで禁止していた。
近代産業社会(資本主義社会)になると、資本が主要な生産手段となったため、資本の不平等所有が貧富格差の主要な源泉となった。近代産業社会は身分制を解体したので、諸社会資源の獲得機会は制度的に平等化され、社会移動の可能性が大きく開かれた。
しかし、そこにはまだ「階級」:土地所有貴族、ブルジョワジー、旧中間層、プロレタリアートという明確な社会階層的地位の区分が残っていた。
先進産業社会になると、❶中等・高等教育の普及と専門的職業・管理的職業・事務的職業・販売的職業の増加によって、膨大な新中間層(ホワイトカラー)が出現したこと、❷土地改革、累進課税、福祉国家化などの経済改革・社会改革が進展したことにより、土地所有貴族の消滅と各階層間の格差の縮小化・相対化・世代間社会移動の増加がみられるようになった。
さらに、「地位非一貫性」の度合いが大きくなり、一方的かつ明確に誰が誰より劣っている、社会格差がどれだけあるということが不明瞭になることで新中間大衆を生み出し、社会の平等化と安定化に寄与するようになった。
「地位非一貫性」:所得・財産・権力・威信・教育・教育など個人の多元的な諸社会資源が存在する中で、例えば所得地位は高いが威信地位が低いなど、複数の地位の高さが一貫しない状態
社会的資源分配の不平等構造は、不平等度が大きく社会移動の小さい西洋19世紀型の「階級」から、平準化がすすみ、社会移動が増加し、地位非一貫性の大きい、現在の先進産業社会における「社会階層」への変動を遂げてきた。
国家と国民社会
●用語の整理
「国家」:国民社会的規模において形成されている最大の地域行政組織であるとともに、主権を行使する統治機関
国家は国土・国民・主権の三要素を持ち、社会学的には組織ないし社会集団の一形態である。国土からは地域社会の概念が、国民からは国民社会の概念が、主権からは三権分立などの国法学的概念が導かれる。
最後のものは政治学・国法学研究に委ねられるものになるが、前二者は、「国民社会は最大の地域社会である」という意味で、社会学的研究に委ねられるものである。
価値システムの概念
価値システム
●用語の整理
「価値システム」:社会システムにおいて制度化されている価値基準・価値観であり、シンボルによって担われることによってはじめて、文化としての存続・継承・伝播が可能となる
例 西洋プロテスタント諸国:プロテスタンティズムの倫理、東アジア:儒教倫理、アメリカン・デモクラシー、日本的経営
価値は個人レベルのものとして、方法論的個人主義によっても分析可能である。しかし、個々人の価値形成は、シンボル的コミュニケーションを通じて、つまり社会における相互行為(対話)を通じての学習の成果である。そこで得られた価値は、個人と同じくする社会システムの成員の多数により相互主観の世界で共有されるものでもある。
それゆえ、社会システムで形成・共有される価値は、方法論的個人主義(全体とは個人の和であると考える)ではすべてを分析しきれず、創発性問題(全体は個人から説明できない)が介在することになる。
類似のことは、新古典派経済学において、「アロウ問題」:個人の選好から社会的厚生関数を引き出すことはできない「一般可能性定理」の数学的証明、にも見られる。
シンボル
価値システムは言語シンボルによって表現される。シンボルとは、相互個人(インターパーソナル)化されることで客観化された意味を担っている記号である。
価値システムは、言語シンボルで表現されることで、思惟する個人から独立して客観化された存在となる。これにより人間の恣意による生産物は他者に対して伝達可能となり、他者によって習得可能となるからこそ、消えてしまわずに蓄積され、やがて文化を形成するに至る。
メディア
●メディアの定義(パーソンズ、ルーマン)
社会システムの4つのサブシステム(❶経済、❷政治、❸社会コミュニティ、❹信託システム)が、相互にインプットとアウトプットを交換する「境界相互交換」のメディア
経済:貨幣
政治:権力
社会コミュニティ:影響力と価値コミットメント
信託システム:信頼関係
社会学の構造 The Structure of Sociology
理論 | 経験 | 歴史 | 政策 | ||||
総論 | 社会学原理 | 経験社会学 | 社会史 社会学史 (学説史) 第一世代 第二世代 (マクロ社会学) (ミクロ社会学) | 社会問題 社会政策 | |||
社会調査 統計的調査 計量社会学 | |||||||
ミクロ社会学 | 行為者の内部分析 | 自我理論 社会意識論 | ミクロ社会 調査・解析 | ミクロ 社会史 | ミクロ 社会政策 | ||
社会システム内の相互行為 と社会関係分析 | 相互行為論 役割理論 社会関係論 社会的交換論 | ||||||
マクロ社会学 | 社会システム 構造論 | マクロ社会 調査・解析 | マクロ 社会史 | マクロ 社会政策 | |||
社会システム 変動論 | |||||||
領域社会学 | 内包的領域 社会学 | 基礎集団 | 家族 | 家族社会学 | 家族調査 | 家族史 | 家族政策 |
機能集団 | 企業 | 組織社会学 産業社会学 | 組織調査・ モラール調査 | 組織史 労働史 | 経営社会政策 労働政策 | ||
全体社会 ×社会集団 | 国家 | 国家社会学 | 国勢調査 | 国家史 | 福祉国家政策 | ||
地域社会 | 農村 | 農村社会学 | 農村調査 | 農村史 | 農村政策 | ||
都市 | 都市社会学 | 都市調査 | 都市史 | 都市政策 | |||
準社会 | 社会階層 | 社会階層理論 | 社会階層調査 | 社会階層史 | 不平等問題 | ||
外延的領域 社会学 | 経済 | 経済社会学 | 経済行動・ 市場調査 | (経済史) | (経済政策) | ||
政治 | 政治社会学 | 投票行動・ 政治意識調査 | (政治史) | (政治政策) | |||
法 | 法社会学 | 法行為・ 法意識調査 | (法制史) | (法政策) | |||
宗教 | 宗教社会学 | 宗教行為・ 宗教意識調査 | (宗教史) | (宗教政策) | |||
教育 | 教育社会学 | 教育行為・ 教育意識調査 | (教育史) | (教育政策) |
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