概要
マクロ社会は、社会集団と地域社会から成る。地域社会は都市と農村に分かれるので、地域社会研究は、農村社会学と都市社会学に大別されることになる。
都市社会学は、都市と都市生活に関する社会学である。都市の構造や機能・役割を多角的に分析・解明し、それらの変遷を明らかにしようとする。
社会学が生まれたヨーロッパでは、産業革命以降の急激な社会変動下にある都市の実態研究に求められるヴェーバーやゾンバルト、ジンメルらによる都市研究があったが、わざわざ都市社会学とは銘打たれることはなかった。
都市社会学との名称は、1920年代のアメリカで起こり、パーク、同心円地帯論・遷移地帯論で知られるアーネスト・バージェス、アーバニズム論で知られるワースらシカゴ学派によって担われた。
アメリカ発の都市社会学は、まさにシカゴという貧困・スラム・浮浪者・犯罪・非行・社会不安などが渦巻く都市問題多発地帯での研究を素地に発展していった。
シカゴ学派
シカゴ学派の都市社会学は、パーク、バージェス、マッケンジーの共著『都市』(1925)に始まる。
パークはシカゴを、人々が密集しているにもかかわらず相互に孤立して生活しており、絶えず流動しているがゆえに互いに密接な社会関係を形成することが無く、相互監視による社会統制が弱く、道徳的秩序の崩壊に陥っていると分析した。
一見して無秩序にも見えるが、都市は自然形成された一定の形態を持つ人口分布と地域組織を持つ。パークとバージェスは、動植物の地域的分布と環境に対する適応様式を研究する生物学の一分野である生態学を、都市における人間の人口分布と地域組織に適用した人間生態学として分析しようとした。
動植物に多様な種があるように、人間にも人種・職業・階層などに応じて多様な種が存在する。動植物が特定種ごとに群をつくるように、人間も特定種が特定地域に集まり群をつくって居住する。シカゴはとりわけ移民の数が多く、人種の坩堝であり、商工業者・労働者・ホワイトカラーなど多様な住民から成る。これらの人々が自分の意志で移動することで、一定の形態を持つ人口分布と地域組織を能動的に作り出す様を明らかにするのが人間生態学である。
バージェスは、大都市に成長したシカゴの拡大過程を人間生態学的に捉えると、同心円的な構造が見えてくると考えた。
第一地区:19世紀前半、現在ループと呼ばれている「小さな集落」が生まれて
第二地区:移民や渡り労働者が外側に住み着いた「移民街・黒人地帯・スラム」
第三地区:工場労働者や商店従業員がさらに外側に押し出されて「労働者住宅地帯」を形成
第四地区:ホワイトカラーがもう一つ外側に出ていって「住居地帯」を形成
第五地区:車を持っている中産階級はもっと郊外に出て行って「通勤者地帯」を形成
この同心円には、向心(centeralization)及び離心(decenteralization)の力が働いて、第一地区は中央ビジネス地区として、中枢管理機能がますます集中するようになり、他方で、高級住宅地はますます郊外に広がっていくものとした。
ワースは、『生活様式としてのアーバニズム』(1938)で、都市と村落との差異を、都会人の生活様式や意識・態度のようなミクロ社会学的特性の違いに求めた。
彼は都市を人口数・人口密度・住民の異質性の三要素によって規定した。
アーバニズムとは、都市的生活様式を構成する諸特性の複合体で、都市において形成されるが、都市を超えて広がるものとされた。これにより、「都市化」の概念を、「近代化」や「産業化」と並ぶところまで引き上げることに成功した。
また、「都市的」なものと「村落的」なものの連続性を考える上で必須概念である「都鄙連続体」概念の形成にも貢献した。
日本の都市社会学
日本の都市は、戦国大名によって造成された城下町に始まり、徳川時代に著しく発展した。長らく、城下町の研究は歴史家の領分であった。
日本における都市社会学は、農村社会学よりも遅れて、シカコ学派の理論を日本に導入する形で始まった。
日本における都市社会学の第一世代として、奥井復太郎・磯村英一・鈴木栄太郎の3人を挙げることができる。
鈴木栄太郎
奥井と磯村はシカゴ学派の人間生態学に立脚したが、鈴木は農村社会学が転じた学者であったため、鈴木の元で、両者の結合が起き、都市を「社会的交流の結節機関」とする独自理論を定型化することに成功した。
鈴木がギャルピンから示唆を受けて確立した理論は、社会関係が土地の上に投射されたものである。一方で、動植物の地表における分布のアナロジーに由来するシカゴ学派の人間生態学とは真逆の論理組立方法となる。
鈴木は、生態学的方法によって、農村社会学と都市社会学理論の統一的理解を可能にした。
生態学的概念化によれば、都市も村落も人々の社会関係が一定の地域の上に累積した地域統一体たる「聚落社会」であることが共通項となる。しかし、都市は結節機関のある聚落社会であるが、村落は結節機関が無い点が異なる。
村落には結節機関が無いから、通常は村落と村落は社会的交流を持ちえない。とある村落が別の聚落社会と交流し得るのは、付近の都市を通して初めて可能となるのである。
多数の村落がひとつの都市を結節機関としてつながり合い、複数の都市にある結節機関同士がさらに全体としてシステム的に連携しあって、やがてそれは国民社会を形成するに至る。
奥井復太郎
奥井はもともと経済学者であり、都市経済論の講義を受け持っていた。
奥井によれば、シカゴ学派の都市社会学はアメリカ都市の特異性、歴史的伝統を欠き、短期間の内に発展したが故に流動的で、移民などを大量に含んで異質性が大きく、日本の都市には直接適用できないものと看做された。
奥井は、東京とその郊外の社会調査を数多く行い、シカゴ学派の人間生態学的区分に相当するものは、「地域」「地区」の区分にあたるものとした。
しかし、東京の場合、シカゴのような同心円構造にはなっておらず、盛り場や商店街といった中心地は、ひとつではなく、銀座・浅草・新宿・渋谷などのように複数存在しており、それぞれ複数の中心地ごとに東京の各地域が形成されているとした。
磯村英一
磯村の研究は、人間生態学をベースにしている点で奥井と共通基盤に立っている。しかし、磯村独自の視点として、近代都市の社会構造は、基礎集団(家族)と機能集団(企業)の場所的分離を前提としている点で農村の社会構造とは根本的に異なると見た点がある。
磯村は、社会学者が都市を調査する場合には、人口分布なら住民登録に依拠し、人口密度なら夜間居住人口に基づいて考えるが、夜間は都市の主要機関は機能停止をしており、近代都市が持つ巨大な機能集団から成る構成を持つ点を疎かにしているという指摘をした。
磯村は、住居(家族の生活の場)と職場(企業活動の場)は「通勤」という現象の発生によって場所的分離を起し、家族(第一の空間)と職場(第二の空間)と、通勤途中に生み出された第三の空間(盛り場など)が存在していることを喝破した。
磯村は、この盛り場の機能を「生活拡充的機能」と呼び、「マス」の状態として特徴づけた。
新都市社会学
1970年代以降、マルクス主義の影響の下に、都市をジェンダーや階級など権力のあらわれる場ととらえるマニュエル・カステルら新都市社会学が登場して、都市問題の認識の前提に上記の視点が欠けているとしてシカゴ学派を批判するようになった。
カステルの登場が都市社会学におけるシカゴ学派の単独支配構造を終焉させたとはいえ、あくまでマルクス主義からののイデオロギー的な批判の範疇を超えるものではなかった。
日本の都市社会学においては、農村社会学ほどマルクス主義は影響を広げることはできなかった。
マルクス主義が戦前から農村研究おいて享受してきた講座派のような理論的遺産が都市研究の分野では見られなかったからである。
戦後日本の著しい高度産業化によってもたらされることとなった急激な都市化が引き起こす諸問題は、マルクス主義が想定していなかったことが大多数であったから、日本の都市社会学の第二世代以降の研究者たちは、農村社会学の陥ったイデオロギー闘争に煩わされることなく、研究主題の多様化を図り、日本の都市社会学をシカゴ学派を超えて活性化することに成功した。
現代都市社会学
同時代の都市社会の姿を映す鏡であると言われる都市社会学は、都市史、比較都市類型論、コミュニティ論、町内会、ライフスタイル、都会人のパーソナリティ、都市の高齢化・情報化、都市と権力、グローバル化と都市の関係(グローバル都市論)、先進資本主義国大都市のインナーシティ、エスニック・マイノリティ問題、第三世界の大都市問題(メガシティ論)など、数多くの都市的問題に取り組んでいる。
社会学の構造 The Structure of Sociology
理論 | 経験 | 歴史 | 政策 | ||||
総論 | 社会学原理 | 経験社会学 | 社会史 社会学史 (学説史) 第一世代 第二世代 (マクロ社会学) (ミクロ社会学) | 社会問題 社会政策 | |||
社会調査 統計的調査 計量社会学 | |||||||
ミクロ社会学 | 行為者の内部分析 | 自我理論 社会意識論 | ミクロ社会 調査・解析 | ミクロ 社会史 | ミクロ 社会政策 | ||
社会システム内の相互行為 と社会関係分析 | 相互行為論 役割理論 社会関係論 社会的交換論 | ||||||
マクロ社会学 | 社会システム 構造論 | マクロ社会 調査・解析 | マクロ 社会史 | マクロ 社会政策 | |||
社会システム 変動論 | |||||||
領域社会学 | 内包的領域 社会学 | 基礎集団 | 家族 | 家族社会学 | 家族調査 | 家族史 | 家族政策 |
機能集団 | 企業 | 組織社会学 産業社会学 | 組織調査・ モラール調査 | 組織史 労働史 | 経営社会政策 労働政策 | ||
全体社会 ×社会集団 | 国家 | 国家社会学 | 国勢調査 | 国家史 | 福祉国家政策 | ||
地域社会 | 農村 | 農村社会学 | 農村調査 | 農村史 | 農村政策 | ||
都市 | 都市社会学 | 都市調査 | 都市史 | 都市政策 | |||
準社会 | 社会階層 | 社会階層理論 | 社会階層調査 | 社会階層史 | 不平等問題 | ||
外延的領域 社会学 | 経済 | 経済社会学 | 経済行動・ 市場調査 | (経済史) | (経済政策) | ||
政治 | 政治社会学 | 投票行動・ 政治意識調査 | (政治史) | (政治政策) | |||
法 | 法社会学 | 法行為・ 法意識調査 | (法制史) | (法政策) | |||
宗教 | 宗教社会学 | 宗教行為・ 宗教意識調査 | (宗教史) | (宗教政策) | |||
教育 | 教育社会学 | 教育行為・ 教育意識調査 | (教育史) | (教育政策) |
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