計算式
総資本経常利益率とは、経常利益を総資本で割り算して求められる。総資本に占める経常利益の構成割合を示す。計算結果は総資本に対する利益率を意味するので、一般的には、この値が高いほど収益性が高いという評価がなされる。
総資本=総資産 であるとの前提に立てば、日本語で「総資産経常利益率」と表現されていても指標は同値と考えて差し支えが無い。
英語では細かい言い回しが多く存在し、「Ordinary return on total assets」「Ordinary return on total capital」「Ratio of ordinary profit to total assets」「Ratio of ordinary profit to total capital」「Return of asset」等と呼ぶ。
特に、損益計算書(P/L)上の段階利益概念を表示せず、一般的に、総資産利益率(総資本利益率)、ROA: Return on Assets と表記されていた場合、どの段階利益概念を用いているのか確認が必要である。
あくまで私見だが、採用可能性の高いもの順に並べると、
- 経常利益
- 当期純利益
- 事業利益(管理利益)、NOPAT等:プロフォーマ指標、会社独自の定義を要確認
- EBIT
- 営業利益
- 売上総利益
- 税引前利益
- EBITDA
参考にして頂きたい。
総資本(=総資産)に占める割合(構成比率)を百分率で表すのが一般的であるから、単位には専ら「%」が用いられる。
\( \displaystyle \bf 総資本経常利益率 = \frac{経常利益}{総資本} \)
例
総資本 500
経常利益 60
\( \displaystyle \bf 総資本営業利益率 = \frac{60}{500} = 12.0\% \)
P/L項目、ここでは利益額が1年未満の期間におけるものの場合は、年平均値に換算する必要がある。月次利益ならば12倍、単四半期利益ならば4倍する。
B/S項目、ここでは総資本(=総資産)には、平均残高(平残)を用いる。平均残高は、期首期末の平均値であり、(期首残高+期末残高)÷2 で求める。
仮に、利益が単四半期の場合、総資本も同じ単四半期の期首期末の値を用いて平均残高を計算する必要がある。年平均残高は用いない。
- 経常利益:本業からの利益+財務活動など本業以外からの損益
- 【加算法】営業利益+営業外損益
- 【減算法】純売上高 - 売上原価 - 販管費 - 営業外費用(+ 営業外収益)
- 総資本:総負債+純資産
- (=総資産:流動資産+固定資産+投資その他の資産+繰延資産)
定義と意味
総資本経常利益率は、企業が外部から資金調達した資本がどれだけの本業からの利益+本業以外からの利益の合計利益を生み出したかを示す。外部調達資金は他人資本と自己資本の合計値である。
本業と財務活動などの本業以外の活動は合わせて、経常的な企業活動とされ、その結果稼得されるのが経常利益である。逆に言うと、一時的な損失や利益は特別損益の部で考慮することになっており、経常利益はこれらを含まないことからも、経常性=一時的な損益を含まない、という事が分かる。
一般に、経常利益は企業の総合的な収益力を示すものとして考えられているから、総資本利益率が高い場合は、調達資本が効率的に使用されており、収益性が高いといえる。
このとき、総資産経常利益率 と呼称していた場合、「企業が事業へ投下した総資産がどれだけの本業からの利益+本業以外からの利益の合計利益を生み出したかを示す」、と説明が若干変わってくるが、計算結果は違わない。
これは、資金調達源泉を示す総資本と、資金運用(=資金投下)した金額を示す総資産というB/Sにおける貸借双方の考え方の違いによる。
このとき、総資本(=総資産)ではなく、投下資本、経営資本、使用資本、純資本、自己資本、普通株式(で資金調達した額)、資本金 という風に、様々な資本概念を用いた場合、分子に来る利益概念を統一していたとしても、結果として計算される値は異なってくる。
資本利益率は、
- 総資本、投下資本など、分母に来る資本概念を確認する
- 営業利益、当期純利益など、分子に来る利益概念を確認する
- 分子分母の組み合わせは、どのような資本利益率を計算したいかの目的によって選ばれる
下図は、総資本と経常利益の対応関係をP/LとB/Sを併記して表したものである。
総資本として外部調達された資本は、営業利益を生み出す本業たる事業資産へと投資されるか、待機資産や財務資産として本業以外の活動へと投資されるかである。
そのため、総資本営業利益率のように、分子分母の対応関係が曖昧な指標より、総資本経常利益率は厳密に分子分母の対応関係が維持されておりより適切な投資収益性指標であるとの評価がなされることが多い。
本指標は、中小企業基盤整備機構(J-Net21)が提供する「経営自己診断システム」にて、「総資本営業利益率」と共に、収益性関連指標として採り上げられている。
なお、総資本営業利益率と総資本経常利益率の相違については、総資本営業利益率の稿に説明があるので参照頂きたい。
〇対策・判断基準
経営診断システム>結果の見方>個別指標一覧>収益性関連指標|中小企業基盤整備機構
経常利益が少ないか、総資本が過大であると比率は低くなります。
比率が低い場合には、販路拡大や経費削減をすることで経常利益を増やすか、
不良資産を処分し総資本を圧縮して資本効率を高めるなど、 資産内容の見直しを検討してみましょう。
また、資本に占める固定資産の割合が高く、 かつこの比率が低い場合には、将来的に資金繰りの悪化を招く可能性がありますので、
借入金等など早めの事業資金手当てが必要です。
上記は、総資本経常利益率の説明文からの抜粋になる。ここから、3つの意図が窺える。
ひとつ目の推測される意図として、総資本経常利益率はROEにおけるデュポンツリーの如く、いくつかの指標に細分化することで、財務指標と経営の打ち手との関連性をより密接に表現できることである。
\( \displaystyle \bf 総資本経常利益率 = \frac{経常利益}{総資本} = \frac{経常利益}{売上高} \times \frac{売上高}{総資本} = 売上高経常利益率 \times 総資本回転率\)
ふたつ目の意図は、総資本営業利益率の方で言及しているのでここでは割愛する。
三つ目の意図は、いわゆる経常収支に関する注意喚起である。経常収支は、資金運用表・資金移動表の活用で登場する概念である。詳細は下記の関連稿を参照して頂きたい。
解釈と使用法
総資本経常利益率は、総資本(資産合計)に対する経常利益の比率であり、比率が高いほど投資収益性(投資効率)が高くなることが分かっている。
という傾向にあることは分かっている。
とはいえ、「総資本経常利益率」を構成する「売上高経常利益率」と「総資本回転率」の水準は、採用されているビジネスモデルに大きく影響される。
業界ごとの利益水準はもとより、その業界に課せられている資本コストも様々であることから、一応、業種ごとの平均値をとりあえずのベンチマーク指標とすることの意義は大きいといえる。
2021年度『法人企業統計』から、総資本経常利益率の概算値を算出した。
計算式は下記の通り。
\( \displaystyle \bf 総資本経常利益率 = \frac{経常利益}{\left(\frac{当期末総資産+前期末総資産}{2}\right)} \)
コード | 業種 | 総資本経常 利益率(%) | 売上高経常 利益率(%) | 総資本回転率 (回転) |
---|---|---|---|---|
132 | 水運業 | 11.70 | 15.87 | 0.74 |
160 | 職業紹介・労働者派遣業 | 10.59 | 5.76 | 1.84 |
116 | 石油製品・石炭製品製造業 | 9.66 | 6.26 | 1.54 |
124 | 業務用機械器具製造業 | 7.73 | 11.81 | 0.65 |
145 | 情報通信機械器具製造業 | 7.71 | 10.25 | 0.75 |
115 | 化学工業 | 7.46 | 12.80 | 0.58 |
121 | 生産用機械器具製造業 | 7.17 | 9.36 | 0.77 |
126 | その他の製造業 | 7.10 | 8.98 | 0.79 |
138 | 広告業 | 7.10 | 4.30 | 1.65 |
122 | 電気機械器具製造業 | 7.08 | 10.45 | 0.68 |
154 | はん用機械器具製造業 | 6.52 | 9.18 | 0.71 |
106 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 6.45 | 24.46 | 0.26 |
108 | 製造業 | 6.35 | 8.26 | 0.77 |
142 | 情報通信業 | 6.30 | 10.21 | 0.62 |
123 | 自動車・同附属品製造業 | 6.13 | 7.58 | 0.81 |
118 | 鉄鋼業 | 5.91 | 6.67 | 0.89 |
146 | 輸送用機械器具製造業(集約) | 5.79 | 7.20 | 0.80 |
107 | 建設業 | 5.53 | 5.08 | 1.09 |
119 | 非鉄金属製造業 | 5.38 | 6.76 | 0.80 |
117 | 窯業・土石製品製造業 | 5.37 | 8.05 | 0.67 |
143 | その他のサービス業 | 5.10 | 6.33 | 0.81 |
109 | 食料品製造業 | 4.92 | 4.63 | 1.06 |
120 | 金属製品製造業 | 4.76 | 6.33 | 0.75 |
127 | 卸売業 | 4.70 | 3.12 | 1.51 |
153 | 教育、学習支援業 | 4.69 | 5.79 | 0.81 |
113 | パルプ・紙・紙加工品製造業 | 4.58 | 5.63 | 0.81 |
112 | 木材・木製品製造業 | 4.51 | 4.86 | 0.93 |
159 | その他の学術研究、専門・技術サービス業 | 4.43 | 6.76 | 0.66 |
129 | 卸売業・小売業(集約) | 4.42 | 2.99 | 1.48 |
152 | 医療、福祉業 | 4.41 | 3.95 | 1.12 |
104 | 全産業(除く金融保険業) | 4.25 | 5.80 | 0.73 |
128 | 小売業 | 3.95 | 2.77 | 1.43 |
144 | 非製造業 | 3.50 | 4.85 | 0.72 |
103 | 漁業 | 3.47 | 3.71 | 0.93 |
105 | 農林水産業(集約) | 3.41 | 4.02 | 0.85 |
101 | 農業、林業 | 3.40 | 4.10 | 0.83 |
161 | 学術研究、専門・技術サービス業(集約) | 3.25 | 15.85 | 0.20 |
137 | サービス業(集約) | 3.02 | 7.37 | 0.41 |
130 | 不動産業 | 2.96 | 12.47 | 0.24 |
110 | 繊維工業 | 2.88 | 4.43 | 0.65 |
158 | 純粋持株会社 | 2.84 | 55.22 | 0.05 |
136 | ガス・熱供給・水道業 | 2.69 | 3.48 | 0.77 |
114 | 印刷・同関連業 | 2.57 | 3.63 | 0.71 |
151 | その他の物品賃貸業 | 2.52 | 4.58 | 0.55 |
155 | 不動産業、物品賃貸業(集約) | 2.45 | 9.87 | 0.25 |
125 | その他の輸送用機械器具製造業 | 2.35 | 3.13 | 0.75 |
148 | 飲食サービス業 | 1.68 | 2.22 | 0.76 |
134 | 運輸業、郵便業(集約) | 1.10 | 1.86 | 0.59 |
141 | 娯楽業 | 0.89 | 1.58 | 0.57 |
149 | 物品賃貸業(集約) | 0.75 | 2.61 | 0.29 |
157 | 生活関連サービス業、娯楽業(集約) | 0.67 | 0.97 | 0.69 |
150 | リース業 | 0.57 | 2.20 | 0.26 |
135 | 電気業 | 0.44 | 1.09 | 0.40 |
140 | 生活関連サービス業 | 0.43 | 0.52 | 0.83 |
131 | 陸運業 | 0.33 | 0.60 | 0.55 |
133 | その他の運輸業 | -0.40 | -0.64 | 0.63 |
156 | 宿泊業、飲食サービス業(集約) | -0.99 | -1.50 | 0.66 |
139 | 宿泊業 | -7.03 | -16.56 | 0.42 |
ランキング下位の売上高経常利益率がマイナスの業種は、いち早く、コロナ禍からの悪影響を脱して、正常状態に回復してもらわないと分析できない。
総資本経常利益率は、売上高経常利益率と総資本回転率に分解できるため、この種の業種別データの解析の王道としては、以下の2つが存在する。
❶総資本経常利益率の高低が業種ごとに遍在する要因分析
❷要素分解した売上高経常利益率と総資本回転率の分布分析
今回は❷について着目して、「バブルチャート」を眺めると、定石通り、右肩下がりの曲線を観察することができる。
「広告業」「流通業」は薄利多売型の低マージン・高回転のビジネスモデル、一方で、「純粋持株会社」「鉱業、採石業、砂利採取業」「不動産業」などは、高付加価値型の高マージン・低回転のビジネスモデルを採用していることが分かる。
2021年度の上位ランキングは以下の通り。
順位 | 業種 | 総資本経常 利益率(%) | 売上高経常 利益率(%) | 総資本回転率 (回転) | ビジネスモデル類型 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 広告業 | 7.10 | 4.30 | 1.65 | 薄利多売型 |
2 | 鉱業、採石業、砂利採取業 | 6.45 | 24.46 | 0.26 | 高付加価値型 |
3 | 製造業 | 6.35 | 8.26 | 0.77 | 中間型 |
4 | 情報通信業 | 6.30 | 10.21 | 0.62 | 中間型 |
5 | 建設業 | 5.53 | 5.08 | 1.09 | 薄利多売型 |
2021年度は概ね、高付加価値型のビジネスモデルの採用業種劣位に動いた感がするが、通年とそれほど違わない。
しかし、「鉱業、採石業、砂利採取業」は天然資源を中心としたインフレの影響が、「情報通信業」は、ウィズコロナ下の新規需要をうまく捉えた成果が功を奏した模様だ。
シミュレーション
以下に、Excelテンプレートとして、FY16~FY21の任天堂の実績データをサンプルで表示している。
入力欄の青字になっている「期間」「売上高」「経常利益」「総資産」に任意の数字・文字を入力すると、表とグラフを自由に操作することができる。
総資産は総資本へテンプレート内で読み替えている。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
FY16から一貫して収益性が右肩上がりで上がっている。もちろん、ビジネス規模の拡大との同時達成であるから、利益ある成長の教科書的な展開である。
但し、FY21は総資本回転率の悪化により、総資本経常利益は前年対比で縮退してしまい、一見すると資本効率性が落ちてしまっているように見受けられる。
貸借対照表(B/S)の前年対比で資産・資本構成を見てみると、資産側(借方)では、棚卸資産と投資有価証券の増加が目立つ。資本側(貸方)では、利益剰余金がその増加をファイナンスしている。
内部留保の積み上げにより、ビジネスの攻勢強化で棚卸資産を積み、同時に財務体質強化で投資有価証券を買い増ししている。
なお、最近流行のアクティビストによる余剰資本の払い戻しの圧力がどのようにこの資本政策に影響してくるか、今後の推移が待たれる。
(なお、任天堂が2022/10/1に実施した株式分割はあくまで購入単位(単元株)の変動であり、資本効率自体の問題ではない)
参考サイト
同じテーマについて解説が付され、参考になるサイトをいくつか紹介しておく。
[財務諸表分析]比率分析指標の体系と一覧
1 | 財務諸表分析の理論 | 経営分析との関係、EVAツリー |
2 | 成長性分析(Growth) | 売上高・利益・資産成長率、持続可能成長率 |
3 | 流動性分析(Liquidity) | 短期の支払能力、キャッシュフロー分析 |
4 | 健全性分析(Leverage) | 財務レバレッジの健全性、Solvency とも |
5 | 収益性分析(Profitability) | ROS、ROA、ROE、DOE、ROIC、RIなど |
6 | 効率性分析(Activity) | 各種資産・負債の回転率(回転日数)、CCC |
7 | 生産性分析(Productivity) | 付加価値分析、付加価値の分配 |
8 | 市場指標(Stock Market) | 株価関連分析、株主価値評価 |
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