価値提案 Value Propositions – ビジネスモデル体系
ECRSの4原則に則り各ビジネスモデルをグループ分け
排除 Eliminate
アンバンドリング
従来は一体として提供されていた製商品・サービスの一部を切り出して独立させて、顧客に提供する。
IT業界で従来はハードウェア・ソフトウェアの一体販売から、それぞれのバラ売りをIBMが始めたことが最初。
顧客の立場からすれば、不要な部分への追加的出費を下げることができ、機能や価値を利用・消費するタイミングもより選択自由度が高まることで顧客価値を増進させることができる。
例 IBM、QBハウス、LCC
同質化
市場で1位のトップ企業(リーダー)が、2位以下のフォロワー企業を模倣することで、フォロワー企業の差別化からくる価値を破壊する。
相対的にトップ企業の方が財務基盤が強固である傾向が強いため、同質的な競争はいきおい価格競争に陥らざるを得ず、中朝的には体力に勝るトップ企業の覇権はより強固に守られることになる。
ただし、フォロワー企業が新商品を上市したり、新技術を提供したりすると、即座に同質的な製商品・サービスを追随して市場に出すことが必要なので、財務力と同程度一定以上に、新商品開発力・広告宣伝力も兼ね備えていないが実行が難しくなる。
例 日本コカ・コーラ、日清食品、IBM、トヨタ自動車
時間利益
用語自体は多義的だが、ここでは「先行者利益」を意味するものとする。競合企業が追い付いてくるまで、販売単価を高止まりさせて利益を上げるとともに、累積生産量の積み上がりを加速させることで、経験曲線効果によりどこよりも早くコスト低減を実現させて、この事業の累積獲得利益を最大化することを目指す。
→イノベーション
(この語も多義的に用いられるが、ここでは時間利益を生む手段として技術革新による新製品開発と新業務プロセス開発を意味するものとする)
→経験曲線
サードパーティ利益
メインの商材を開発・生産する企業が提供するエコシステムの中で、付属品・アクセサリーを企画・製造したり、据え付けゲーム機用のゲームソフトウェアを開発することで、一から市場を起ち上げるコストと時間を節約することができる。
結合 Combine
ブルーオーシャン
従来にはなかった顧客への価値提案の仕方を新たに提示することで、全く競合がいない市場を創出し、市場を専有(占有・先有)することで高収益を実現する。
価値提案の仕方の新たな組み合わせは、❶提供製商品・サービスの機能や要素の組み換え、❷新しい顧客層の開拓、❸売切りではない継続契約やサービス付加価値を付けるなど提供方法の組み換え、❹従来発想では出てこない経営資源の活用法による破壊的低価格の実現、など
例 最初に有名になったのはシルク・ド・ソレイユ、iモード、任天堂Wii、ROUND1
バンドリング
2つ以上の商材を組み合わせてセットで提供する。各種ソフトウェア(アプリケーション)がプリインストールされたパソコンを販売する、飲食店・ファストフードなどの定食セット、ランチセットなど。
バラバラで買うより、セット販売の方が全体的な支出が抑えられること、バラバラに購入する手間がかからないこと、に対する顧客満足度が割引価格を上回ればバンドリング戦略に沿った販売戦略は成功したといってよい。
例 Officeスイートがプリインストールされたパソコン、マクドナルド、KFC、すき家
ファイナンスサービスによる顧客囲い込み
自動車販売にあたっての販売金融サービス(自動車ローン)、携帯・スマホキャリアによる端末の割賦販売(通信料金の一定額の割引と月々の支払い分割)など、本業にファイナンスサービスを組み合わせて顧客離反が起きにくくする。
アグリゲーター
複数のオリジナル製商品・サービスを提供する企業から商材と経営資源を収集・選別し、自社の顧客に一括的なアクセスを許可することで、顧客の比較・選択・検索・制御などの手間を省かせることで手数料を得るビジネスモデル。
類似ビジネスモデルであるインテグレーターとの違いは、収集した商材・経営資源を接合・編集して全体として機能するように統合するかしないかで、アグリゲーターは接合・編集はせず、生の商材をそのまま提供する。
例 カカクドットコム、BLOGOS、グノシー
インテグレーター
バリューチェーンにおける徹底した垂直統合を行い、各プロセス間のフィードバックを密にすることで、付加価値を上げるビジネスモデル。
アグリゲーターは、商材を集めて顧客が使いやすいように便宜を図るところに価値があり、インテグレーターは、商材の改変(素材収集→加工→配送→アフターサービス)に積極的にかかわり、バリューチェーンに対する統制力を強めることで商材の魅力度を上げるところに価値がある。
例 カーネギー・スチール、フォードモーター、富士通、NEC(一時の総合電機)
マルチウインドウ(利益増殖)
版権を含む知的財産権(IP: intellectual property right)から多重の利益を得るビジネスモデル。
元来、映像コンテンツビジネスにおいて、一度制作した番組(作品)を劇場に配給後、地上波テレビ→BS・CS放送→ケーブルテレビ→ペイパービューへ順次投入するスタイルを指す言葉だった。
※ウインドウ→スクリーン(画面)から想起される言葉
現在では、キャラクター(漫画、アニメ、ゲーム、ゆるキャラ等)やタレントを中心としたマルチメディアの商品展開(キャラクターグッズなど)へも広く使われるようになった。
例 ディズニー、バンダイナムコ、サンリオ
体験の販売
商材として販売する製商品・サービス本体に付随して、付加的なサービスを添えることで顧客価値を高め、需要を喚起する。
例 書店で、喫茶エリアを設けたり、著者のサイン会・絵本読み聞かせ会を行う
感動サービス
通常の商材提供にプラスして、顧客体験を高めるサービスを付随的に添える。顧客は事前には期待していなかった付加価値を経験して、商材購入に対する満足度が向上する。
→(類似)体験の販売
ワンストップ・ショッピング
最終消費者が欲しい商材を一か所訪れるだけで限りなく全てを入手できる「場」を提供する。
「場」は、ECサイトやショッピングモールなど、バーチャル(ネット)とリアルの両方存在する。
自社製品からの情報フィードバック
IOT技術をベースとしたもので、自社製品・サービスに通信機能を盛り込み、運転状況、製品の稼働状態、物理的位置を自社のデータセンターにフィードバックさせて、その情報を元にアフターサービス(カスタマーサービス)を提供する。
補充品の適時補給や、定期メンテナンスのプランニング、盗難防止、次の製品開発へのアイデア収集、サービスフィーの安全な回収というメリットがある
例 コマツのKOMTRAX、GE、テスラ
製品ピラミッド
同一または同一グループの製商品・サービスのラインナップを充実化し、製品グループ全体でトータルでは大きく収益を上げることができるように、ラインナップを提供する。
代表的な手法は、❶エントリーレベルの廉価版・普及品を市場投入し、マス市場での顧客認知度の維持と、競合企業の新規参入を防止する、❷ハイエンドレベルの高級品・特化品を市場投入し、非常に高い利益率で販売する、という2つのラインナップを揃える。
廉価版が「ファイアーウォール」として機能し、高級品が「キャッシュマシーン」として機能し、ブランド全体では、帳尻がうまく合わせて大きく収益を上げることができる。
交換 Rearrange
ソリューション
従来の製商品・サービスの単発売りから収益をあげる”モノ消費”ではなく、顧客の課題解決という”コト消費”で収益をあげる。
IBMがルイス・ガースナーによって変貌し、サーバー販売から、サーバーを組み込んだITインフラの構築というサービス提供にシフトして企業業績を回復させた例で有名
レビット博士の「ドリルの穴理論」も有名
人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ
セオドア・レビット著「マーケティング発想法」
(People don’t want quarter-inch drills. They want quarter-inch holes.)
例 IBM、アデランス、富士ゼロックス
マス・カスタマイゼーション
大量生産(マス・プロダクション)が持つ長所である低コスト・安定品質と、特注生産(カスタマイゼーション)が持つ長所である顧客要望を適えることを両立させる。
この両立を実現するために、製品アーキテクチャの標準化により、個々のモジュールの組み合わせで無限に近い組み合わせの最終製品を提供することを可能にする。
例 DELLのBTOパソコン、マイアディダス、リーバイス、自動車(シャーシ、エンジン、色、ホイール)
スイッチボード
最終顧客集団とサプライヤーをつなぐことで手数料をあげる。
例 保険商品の相談無料サービス
→(類似)データハブ
スマイルカーブ
電子機器産業を代表として、部品の徹底した標準化・モジュール化によって、加工組み立てといった生産工程に位置する企業の利益率が低くなり、一方で、標準化・モジュール化志向で製品/部品設計する企業と、最終製品を顧客に販売・アフターサービスする企業の利益率が高くなることを指す。
川上企業と川下企業の利益率が高まり、川中企業の利益率が底になる様を口角が上がった顔の表情に模して表した言葉。
台湾パソコンメーカーのエイサー創業者スタン・シー氏が提唱したと言われる。エイサーはEMS(委託生産)メーカーで、川中企業に位置する。まさしく、半導体製造などの製造を担当する企業は、巨額の設備投資を必要とし、資本力がモノを言う(=付加価値が少ない=低利益率)。
逆に、半導体設計を行うアームは高収益で知られている。
マルチコンポーネント
同じ商材でも、対象顧客、時間(季節)、ロケーションなどの違いにより、異なる価格で販売できる
- コカ・コーラ(自動販売機、スーパーマーケット、ディスカウントストア、飲食店)
- ホテル(個人客、団体客、長期滞在客、ハイシーズン、オフシーズン)→近年では、ここをダイナミックプライシングの仕組みでさらに効率化されている
稼働保証
クラウドサービスや、航空機のエンジンなど、商材単体の販売ではなく、消費者に商材を使用してもらった後、商材利用の便宜度を稼働率に置き換えて、その稼働率の保証具合で使用料を徴収するビジネスモデル
消費者とサプライヤーの間で、稼働保証の裏付けがきちんととることができる技術的安全性が無いと実現しない。
嚆矢は、GEやロールスロイスが航空機エンジンの稼働保証を空運会社に付けることで、アフターサービス料のみならず、エンジンの販売価格にまで反映したところから一般に知られるようになった。
最近では、クラウドサービスの稼働時間(稼働率)の計算/定義において、ユーザ側と見解が異なり争いになった事案もいくつかある。
リサイクル
中古品が回収されて、別の地域で再販売されたり、別の製品の原材料として再活用されたりすることで、圧倒的に材料費(仕入コスト)を圧縮することで利益を得る。
リサイクル企業を間に挟んで、中古品を提供するサプライヤーは廃棄物を市場より安く処分することができ、最終消費者は、新品より圧倒的に安く欲しい商材を手に入れることができる。
近年では、取引当事者内の利益に加え、地球環境保護の観点から、環境コストの低減にも貢献する箇所に力が入れられている。
簡素化 Simplify
デファクトスタンダード
デファクトスタンダード(de facto standard)は、結果として事実上標準化した基準のことを指す。
対して、国際標準化機関等により定められた標準をデジュリスタンダード(de jure standard)と呼ぶ。
自社製品・サービスを事実上の業界標準(世界標準)とすることで、安定的需要を確保し、過度な技術競争から自社製品を守ってコストを維持し、事業リスクを抑制することで高収益を上げる。
❶デファクトスタンダードゆえに多くの消費者が選択する→❷デファクトスタンダードの魅力が増す→❶に戻る、、、
需要増→市場認知力向上→コスト低減(量産効果と計画的陳腐化)→需要増→市場認知度向上→・・・
といった好循環サイクルに入ることで、破壊的な高収益を上げることができる。
例 マイクロソフト、インテル、ファナック、アップル
デジタル化
デジタル全盛の時代背景というより、デジタル技術によって既存技術に支えられていた産業や事業、製品が徐々に置き換えられる/updateされる際に観察される収益性向上のパターン。
中間業者の排除、開発・生産・物流プロセスでの無駄の削減、配送の自動化(データ商材の自動配信、オンデマンド配信含む)がオンライン化によって実現されることで、低コスト・高収益な事業を構築できる
格安商品
極限まで提供価値を絞り込み、その結果得られるコスト優位性を積極的に最終顧客に還元することで収益を上げる。いわゆる薄利多売。
薄利多売は、大量生産・安定生産を可能にし、規模の経済をフルに活用して、さらに低コストで商材を提供し、コスト低減率が逓減してゼロになるまではシェアを伸ばせば伸ばすほど、利益額が大きくなる。
市場競争が激しいため、簡単に品質を落とせばよいという問題にはならない。いかにして、消費者が必要と感じる機能や用途に応えられる品質は守り、消費者がお金を支払ってまで欲しいとは感じない機能・用途をどこまで削れるかが勝負になる。
例 LCC(Low Cost Carrier、格安航空会社)
ビジネスモデル体系(概要)
Class | Block | 説明 |
---|---|---|
ターゲット Target | 顧客セグメント Customer Segments | 企業が関わろうとする顧客を明確にする (顧客としないセグメントは無視する) |
顧客との関係 Customer Relationships | 顧客獲得・顧客維持・販売拡大の3点について、 顧客とどのような関係を構築したいか | |
チャネル Channels | 顧客セグメントとのコミュニケーションの方法 顧客セグメントに価値を届ける方法 | |
バリュー Value | 価値提案 Value Propositions | 対象顧客に対して、企業が提供できるベネフィットの総体 顧客が必要とする製品とサービスの組み合わせ |
ケイパビリティ Capability | リソース Key Resources | ビジネスモデルの実行に必要な経営資源の明確化 リソース獲得に必要な対価と収益の流れの相対的関係 |
主要活動 Key Activities | 価値提供するために欠かせない活動 製造・問題解決・プラットフォーム・ネットワーク | |
パートナー Key Partners | どのリソースをサプライヤーから得ているか どの主要活動をパートナーが行っているか | |
収益モデル Profit Models | コスト構造 Cost Structure | ビジネスモデルの運営にあたって発生する全てのコスト |
収益の流れ Revenue Streams | 企業が顧客セグメントから生み出すキャッシュフロー 顧客が支払いたいと思っている対象と望む支払方法 |
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