ビジネスモデル論を進める意義
ビジネスモデルという言葉は多くの論者や学者、コンサルタント、実務家から、様々な定義をされて世の中に紹介されている。
ここで、新たに記述的(descriptive)な定義を始める意図はない。
おそらく、広く世の中でそう呼ばれているビジネスモデルを体系化し、ビジネスモデルと呼ばれているものを整理整頓をすることが本意である。
そのために、整理整頓する対象となる概念・コンセプト・しくみをあえて言葉で表現するならば、以下のようになる。
- 持続的な競争優位を獲得および継続するための事業の進め方
- イノベーションを生み出すアイデアの効果的な探索方法と、とイノベーションを実行するプロセスと、イノベーションがもたらす超過利益を活用するしくみ
- 人間が創意工夫して業績改善や課題解決に結びつくアイデアを構成する要素
数字や言葉で表現されるビジネスモデルをこうやって分析の対象にする以上、分析結果が世のため人のためにならないと、分析作業の意味はないことになる。
20世紀初頭、ジョン・デューイ、ジョージ・ハーバート・ミードらによって発展した、プラグマティズムの精神に立ち返って説明を試みたい。
概念や認識は、それがもたらす客観な事実、もっというと、何かの目的に活用して得られる効用、お役立ち度、道具性の高さ、有用性で定義・評価されるべきである、という考え方・哲学である。
よって、ビジネスモデルを、その構成要素の一つ一つ至るまで、次の新しいビジネスモデルを生み出して、顧客による提供価値の消費を通じて社会に貢献し、同時に、価値を提供した企業が対象事業から超過利益を得るために役立てることができるアイデア・要素・しくみ・方法論として議論していきたい。
ビジネスモデルのフレームワーク
世の中に溢れている数多のビジネスモデルを我田引水、牽強付会ばりに、自らのフレームワークに無理やり押し込めて、交通整理したつもりでいい気分に浸ろうということはない。
複数のビジネスモデルを体系化すること、ビジネスモデルを構成する要素のひとつひとつをあきらかにすること、は、どんなに優秀な個人またはグループがどんなに努力しても、万人が納得する整理に落ち着くことはない。
また、そうした整理整頓が、整然と非の打ち所のない様で実現したところで、そうした整理整頓された結果が、次のビジネスモデル構築の役に立たないと、整理整頓をする行為そのものの意味・大義が失われてしまうことになる。
とはいえ、突飛な整理法を持ち出し、整理法自体の是非を議論するエネルギーは無駄なので、ここでは、現存する中で、筆者が最も整理能力の高いビジネスモデル・フレームワークではないかと考える、「ビジネスモデルキャンバス」に、独自の「ビジネスモデル階層」という属性もあわせて説明に使用することで議論を進めていくことにする。
「ビジネスモデルキャンバス」とは、アレックス・オスターワルダ―が、2005年にリーンスタートアップのためのテンプレートとして開発したものが嚆矢となっている。
電子書籍版もあるが、是非、リアルな紙で備え置くことをお勧めする。
ビジネスモデルの構成要素を以下の9つの視点で整理するためのフレームワークである。これは、ビジネスモデルを構成する9つの要素の特徴から、その要素を含むビジネスモデルの特徴をつかむことに優れている。
還元主義を遡行して、それ自体を観察する手法を採る。
同じ手法でビジネスモデルを構成要素からパターンを抽出して体系化したものに次のオリヴァーガスマンらによる「ビジネスモデルナビゲーター」という書籍がある。
ここでは、ビジネスモデルキャンバスでは少々並べてみるには数が多すぎるので、4つの視点でビジネスモデルのパターン化を試みている。
- Who? 顧客は誰か?
- What? 提供価値は何か?
- How? どんな手段で価値を提供するのか?
- Why? その収益モデルはなぜ儲かるのか?
ならば、ビジネスモデルキャンバスの9要素をこの4軸で層別化しておこう。
もうひとつの特徴づけが、「ビジネスモデル階層」である。これは、今、議論しているビジネスモデルが、事業環境の中でどういった位置づけにあるものかを示すものである。
こちらは、アプリオリ(先験的)に、それぞれのビジネスモデルの有効範囲を階層定義する概念で、これをビジネスモデル論に使用するのは筆者オリジナルのものである。
こうした作業は、フレームワークに落とし込むというより、属性を明確にする(タグ付け)の性格の方が強い。万人受けするフレームワークを、構築することは至難の業であるからである。
ビジネスモデルをいくつか頭の中で整理すためには、タグ付けで十分である。
マイケル・ポーターの「ファイブフォース分析」ですら、受け付けない人は少ながらず存在するのだ。
ビジネスモデルを体系化する意義とは
イノベーション理論の始祖といっても過言ではない、シュンペーターも言及しているように、イノベーションとは新結合である。無から有は生まれない。AとBが新結合して、新たにCが生まれる。
過去のビジネスモデルをできるだけ、「構成要素」と「位置づけ」の2面から整理整頓することで、新たに有効なビジネスモデルを思考する材料にするためにこの整理作業を進める。
過去のビジネスモデルが永続的に超過利益を企業にもたらしてくれることはない。新しく登場したビジネスモデルは、登場した瞬間から陳腐化が始まる。
ブルーオーシャン戦略で話題になった「シルク・ドゥ・ソレイユ」だが、 新型コロナウィルスの影響という環境変化により、事業再生手続きに入ることを2020年6月30日に発表した。
また、ビジネスモデルは、時代を超えて再発明されることも我々は知っている。
2001年に米国アップル社からiPodが発売された。ここからiPhoneに至るまでのアップル社の驚くほどの隆盛は、従来のビジネスモデルの組み合わせであったことはよく知られている。
- コンピュータ産業では水平分業が常識だった当時に、フォード創成時を彷彿とさせる垂直統合による技術とブランドの死守
- T型フォードを思い起こすほどの、機種モデルの極端な少なさ(さすがに色のバリエーションは存在したが)
- ジレットモデルの名で有名な替え刃モデルから逆替え刃モデルへ(ソフトよりハードウェアの付加価値を追求)
万物は流転する。
歴史は繰り返すのである。温故知新は古くて新しい知恵のひとつである。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
オットー・フォン・ビスマルク(1815 – 1898)|ドイツ帝国首相
ビジネスモデル体系(概要)
Class | Block | 説明 |
---|---|---|
ターゲット Target | 顧客セグメント Customer Segments | 企業が関わろうとする顧客を明確にする (顧客としないセグメントは無視する) |
顧客との関係 Customer Relationships | 顧客獲得・顧客維持・販売拡大の3点について、 顧客とどのような関係を構築したいか | |
チャネル Channels | 顧客セグメントとのコミュニケーションの方法 顧客セグメントに価値を届ける方法 | |
バリュー Value | 価値提案 Value Propositions | 対象顧客に対して、企業が提供できるベネフィットの総体 顧客が必要とする製品とサービスの組み合わせ |
ケイパビリティ Capability | リソース Key Resources | ビジネスモデルの実行に必要な経営資源の明確化 リソース獲得に必要な対価と収益の流れの相対的関係 |
主要活動 Key Activities | 価値提供するために欠かせない活動 製造・問題解決・プラットフォーム・ネットワーク | |
パートナー Key Partners | どのリソースをサプライヤーから得ているか どの主要活動をパートナーが行っているか | |
収益モデル Profit Models | コスト構造 Cost Structure | ビジネスモデルの運営にあたって発生する全てのコスト |
収益の流れ Revenue Streams | 企業が顧客セグメントから生み出すキャッシュフロー 顧客が支払いたいと思っている対象と望む支払方法 |
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