原価計算基準 二二(二)[前段]等価係数(インプット基準)追加しました
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原価計算基準 一七 部門個別費と部門共通費

原価計算基準 一七 部門個別費と部門共通費 マネジメント

原文

一七 部門個別費と部門共通費

 原価要素は、これを原価部門に分類集計するに当たり、当該部門において発生したことが直接的に認識されるかどうかによって、部門個別費と部門共通費とに分類する。

 部門個別費は、原価部門における発生額を直接に当該部部門に賦課し、部門共通費は、原価要素別に又はその性質に基づいて分類された原価要素群別にもしくは一括して、適当な配賦基準によって関係各部門に配賦する。部門共通費であって工場全般に関して発生し、適当な配賦基準の得がたいものは、これを一般費とし、補助部門費として処理することができる。

第二章 実際原価の計算|原価計算基準

解説

部門個別費と部門共通費

費目別に集計された原価要素を部門別に集計するにあたって、費目別にどの部門で発生したかを直接的に認識できる費目を「部門個別費(direct departmental overhead costs)」、2つ以上の部門に共通的に発生するため、どの部門で発生したかを直接的に認識できない費目を「部門共通費(indirect departmental overhead costs)」と区分する。

例えば、補助材料費は消費時に出庫票を発行する。その補助材料を必要とする部門が出庫票を発行するのが自然であるから、出庫票の発行元を辿っていけば、直接的にその補助材料費を消費した部門に紐づけることができる。よって、この場合の補助材料費は部門固有費といえる。

但し、同じ補助材料であっても、金額的重要性が小さいものは、生産ライン脇に備え置きされた棚から随時消費される方式が採用されるときもある。このように、継続記録法による入出庫管理がなされない材料の場合、使用先の部門が判明しないので、畢竟、部門共通費扱いとなる。よって、費目を見ただけでは必ずしも部門個別費と部門共通費を識別できない。

各部門長の給料、特定部門に所属する技師や職工の給料・間接賃金等も部門個別費としてよい。

1つの建物(工場)の中に2つ以上の部門が設定されている場合、建物共通の減価償却費、固定資産税、火災保険料などは、その建物内に配置されている諸部門に関する部門共通費となる。

こうして、各原価部門に集計された部門個別費と配賦された部門共通費を合計したものを、一般的には部門固有費という。

基準では、部門個別費はどの部門で発生したか直接的に認識できるため、それぞれの部門に集計する処理を賦課(直課)と表現している。部門共通費は、どの部門で発生したかを直接的に認識できないため、一定のルールでもってそれぞれの部門に配分しなければならない。その処理を配賦と表現している。

部門共通費だが、工場全般に関して発生し、適切な配賦基準が設定しづらいものは、「一般費」と位置づけ、補助部門費として処理することが容認されている。例としては、工場長の給料、図書費、租税公課、雑費などが挙げられる。

適当な配賦基準の条件

部門共通費は、他の部門へ配賦することで最終的に製品原価に算入される。基準では「適当な配賦基準」を用いるようにと指示あるものの、具体的な例示も適当・・の意味するところの説明もない。

一般的には、次の3つの条件を備えたもの(and/or)とされている。

  1. 共通性
    • 原価要素を配賦すべき関係各部門に共通の配賦基準である
  2. 相関性(比例性)
    • 原価要素の発生と相関関係(比例関係)を有する配賦基準である
  3. 経済性
    • 配賦基準のデータが容易に入手できる

「1.共通性」について、例えば、第一工場の建物減価償却費を専有面積比で配賦する場合、該当建屋に配置されている組立部門・動力部・工場管理部と、別棟の第二工場にある試験研究部と混同し、同一の配賦基準を用いて第一工場の建物減価償却費の配賦計算を試験研究部に対しても行うのは不適切である。

これは「専有面積比」という同種の配賦基準を用いてはならないという意味ではなく、ひとつの配賦元部門と、複数の配賦先部門との対応関係が一致し、配賦先部門で共通で同一の配賦計算で処理される対象を区別する必要があるという意味だ。

また、第一工場の建物減価償却費を、組立部門・動力部・工場管理部の他、工場管理部のオフィス域に工場長の座席が実在するからと言って、工場長給料を一般費として単独の補助部門と設定した場合、この補助部門にまで、第一工場の建物減価償却費を専有面積比を使って配賦することは適切ではない。

なぜなら、工場管理部の専有面積のダブルカウントによる配賦計算の歪み、一般費にとって建物減価償却費の配賦の根拠たる用役提供の性質が怪しい、工場長席だけの面積を計算することは「3.経済性」的にも不適合となる、という理由からだ。

仮に100万円の間接費を配賦するための計算コストに毎回10万円かけるのは、営利企業がする仕事としてはお粗末すぎる。これは大げさなことではなく、人間系で配賦テーブルを毎回メンテしているならば、その担当者にかかる人件費が相当な額にのぼることは案外見過ごされがちな隠された真実である。

なお、「解説」の章でこのような記述に文字数を費やすのは、それだけ、手段と目的をはき違え本末転倒した配賦計算が横行している事実への警鐘の為である。

「2.相関性(比例性)」について、同じく建物減価償却費を例にとると、屋外から仕切られた作業環境が整備されるという用役提供があるから、各部門の専有面積によって配賦されることは、各部門の消費電力量や人員数より相対的に合理的で相関性と比例性があると考えられる。なぜならば、建物の建築費は、使用された建材の量や工数が専有面積に比例的に発生すると一般的に考えられるからだ。

当然だが、半導体製造や特殊な試験研究のためのクリーンルーム(防塵室)設置の建築費は、見積段階からその他の建築仕様部分とは内訳で区切られるはずだから、「1.共通性」の面からも、配賦元と配賦先の対応関係を個別に考慮する必要があるのは言うまでもない。

つまり、基本的な考え方として、特別仕様の建築費は、特別仕様の部屋を使用する部門へ配賦されなければならないということだ。あくまで「3.経済性」に配慮しつつという留保条件付きで。

一般費

部門共通費の中で、❶工場全般に関して発生する、❷適当な配賦基準が得がたい、という条件に適合するものは、「一般費」として、これを補助部門費として処理することが容認されている。

この一般費は、製造部門との関係が客観的ではないという意味で、抽象的な補助部門費とも呼ばれる。

このような例外的な扱いを認める本意は、適当な配賦基準も得られないのに、無理を通して何らかの配賦基準によって配賦しても、かえって計算結果を不正確にしてしまい、❶正確な製品原価計算、❷部門ごとの原価管理 という部門別計算の目的を阻害してしまうことを回避する点にある。

このように、補助部門費扱いできる・・・一般費の例として、工場長給料、図書費、租税公課、雑費などがある。

まとめ
  1. 部門固有費
    • 部門個別費:原価要素別に該当部門へ賦課(直課)される
    • 部門共通費:配賦元部門から配賦される
  2. 配賦基準は次の3条件を考慮して適当なものを選ぶ
    • 共通性
    • 相関性(比例性)
    • 経済性
  3. 次の条件を満たすものは、一般費として補助部門費扱いすることが容認される
    • 工場全般に関して発生
    • 適当な配賦基準が得がたい

ポイント

適当な配賦基準例

活動基準原価計算(ABC: Activity-Based Costing)におけるコストドライバーを別にして、伝統的配賦方法の埒内でいえば、金額基準数量基準による配賦基準が最もポピュラーである。

金額基準は、直接材料費など、他の部門共通費の配賦根拠となる別原価要素の金額を用いるものである。数量基準は、原価要素の発生要因となる経営諸活動の活動量を示す数値で、原価要素の消費量である電力消費量や、間接労務費の発生要因である従業員数を用いるものである。

原価計算するためのツールとして配賦基準が必要になるのだから、原価要素にまつわる金額情報が最も普遍的に備わっている。配賦基準情報の入手のしやすさでは、金額基準がダントツだ。

種類基準値適用例備考
金額基準直接材料費工場消耗品費、消耗工具器具備品費
直接労務費労務副費
直接費・素価棚卸減耗費、仕損費、運搬費
その他の原価額材料保管費出庫額
機械帳簿価額機械保険料、機械保守費
数量基準原価要素の消費量電力費機械馬力数、見積消費量
電灯料(照明費)電灯ワット数
専有面積建物減価償却費、不動産賃借料、建物保険料、建物固定資産税、建物修繕費
従業員数従業員募集費、福利厚生費
直接作業時間(工数)試験研究費
機械運転時間機械保守費
処理件数検査費、修繕費

この表はいつでも固定的に適用される類型ではない。実務実態に合わせて流動的に適用されるべき一つの指針にすぎない。

機械の保守点検費用を考える。❶保守点検作業の管理簿が厳格に記録されている、❷各作業ごとにかかった経費が個別に判別できる、という条件を満たしていれば、保守点検対象の機械が設置してある製造部門ごとに、保守点検費用を賦課(直課)すればよい。

次に、❶の条件は満たせても、❷が保守部門全体でしか把握できない事態になって初めて、この保守点検費用は配賦する必要が生じる。どの製造部門のどの機械の保守点検をしたのか作業履歴が自明なら、保守点検作業処理件数で配賦するのが適切かもしれない。保守作業の所要時間まで記録があるなら、所要時間を配賦基準に採用してもよいだろう。

さらに、❶の条件も曖昧な場合は、作業関連情報から離れて、作業対象情報に視点を変える必要がある。より長時間稼働している機械の方が保守点検サービスを必要としているのなら、次善の策として機械運転時間を配賦基準に選択すべきだろう。

また、高額の機械の方が精密で繊細な作動保証をする必要性が高く、保守点検業務の努力をより必要としている実態があれば、機械帳簿価額を配賦基準に選ぶのが手っ取り早いかもしれない。

配賦基準に関する機械回りの資料がほとんど手に入らない状況下では、やむを得ず、直接費・素価を配賦基準に選ぶことを余儀なくされるかもしれない。

このように、前章で触れた「1.共通性」「2.相関性(比例性)」「3.経済性」の3要件をほぼ同時に比較考量しながら、最適な配賦基準値をそれぞれに設定していくことになる。

個人的意見

教科書的な理論としては、「1.共通性」「2.相関性(比例性)」「3.経済性」の3要件のみで適当な配賦基準を選び出さねばならないのは間違いない。しかし、実務の世界の複雑怪奇で、いつでも理想的な配賦基準値に関する情報が入手できるとは限らない。実務の世界では、理論的な適合性を一旦脇において、「4.回収可能性」が考慮される場合がある。

「4.回収可能性」とは、負担能力主義とも呼ばれ、そこで選択される配賦基準は原価負担能力基準と呼ばれる。

これは配賦対象コストを製品売上高(引いては粗利)でもって回収する(カバーするともいう)ことに焦点を当てたものだ。例えば、A製品の総原価は100、B製品の総原価は400、それぞれマークアップ率:50%で販売されるとすると、

A製品売価 = 100 × (1 + 50%) = 150

B製品売価 = 400 × (1 + 50%) = 600

この時、追加的な配賦コスト100が発生しており、用役提供比率がA製品80%、B製品20%だとすると、

A製品粗利 = 150 - (100 + 100 × 80%) = 150 - (100 + 80) = ▲30

B製品粗利 = 600 - (400 + 100 × 20%) = 600 - (400 + 20) = 180

能力負担主義を採用し、追加的な配賦コスト100を配賦前のA製品の粗利50、B製品の粗利200に対して金額配賦すると、

\( \displaystyle \bf A製品粗利 = 150 – (100 + \frac{100}{50+200}\times50) = 150-(100+20)=30 \)

\( \displaystyle \bf B製品粗利 = 600 – (400 + \frac{100}{50+200}\times200) = 600-(400+80)=120 \)

となり、製品Aの赤字が回避される結果となる。全社利益は不変だが、個別製品の赤字を糊塗するために、会計報告上で負担能力主義が濫用されるケースを目にすることも多い。

上例では、用役提供度(A製品80%、B製品20%)という資料が確保されているのだから、この配賦基準を優先して使用する以外の方法は考えられない。しかし、適当な配賦基準がどうしても見つからない場合、最後の奥の手として、負担能力主義を懐に抱えておくのはアリかもしれない。滅多に抜けないからこそ伝家の宝刀なのである。

一般費の概念

一般費の概念をここで深堀しておく。一般費は、特定の給付または部門に賦課(直課)できずに共通的にしかその発生を把握できない間接費で、基準では「補助部門費として処理できる」とあることから、その性質は以下のように分類できる。

  • 費目としての一般費
  • 部門費としての一般費

費目としての一般費は、基準一七においては、直接費に対する間接費として意識されるにすぎないのだが、紛らわしいことに、製造経費に対する「一般管理費」と解釈される余地を残す用語でもある。

また基準内での定義にも一部詰めが甘く曖昧な部分がある。一般費の定義として「工場全般に関して発生する」という説明を付しており、あたかも工場全体の原価部門に用役を提供しているものだけが該当すると解釈できる書きっぷりだが、工場内に配置されている2つ以上の部門からなる一部分の原価部門に対して用役を提供することも現実にはあるだろう。

同様に「補助部門費として処理することができる」という記述は、一般費という抽象的な原価部門の設定と補助部門費として処理することを一体不可分の関係として規定していると解釈せざるを得ない。

しかしながら、一般費には費目としての一般費(費目名が一般費)と、部門費としての一般費(補助部門名が一般費)が存立してしまうのだから、両方の規定がなされるべきところ、基準は後者のみの記述で終わってしまっているのである。

ちなみに、本稿前章「費目別計算から部門別計算へ」の図解では、「一般費」は費目名でもあり、部門名でもあるように両義的に表現している。

原価計算基準 逐条詳解

前文

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

一 原価計算の目的

(一)財務諸表作成目的

(二)価格計算目的

(三)原価管理目的

(四)予算管理目的

(五)基本計画設定目的

二 原価計算制度

三 原価の本質

(一)経済価値消費性

(二)給付関連性

(三)経営目的関連性

(四)正常性

四 原価の諸概念

(一)実際原価と標準原価

1. 実際原価

2. 標準原価

(二)製品原価と期間原価

(三)全部原価と部分原価

五 非原価項目

六 原価計算の一般的基準

(一)財務諸表作成のための一般的基準

(二)原価管理のための一般的基準

(三)予算管理のための一般的基準

第二章 実際原価の計算

七 実際原価の計算手続

第一節 製造原価要素の分類基準

八 製造原価要素の分類基準

(一)形態別分類

(二)機能別分類

(三)製品との関連における分類

(四)操業度との関連における分類

(五)原価の管理可能性に基づく分類

第二節 原価の費目別計算

九 原価の費目別計算

一〇 費目別計算における原価要素の分類

一一 材料費計算

(一)実際材料費の計算

(二)材料の実際消費量

(三)材料の消費価格

(四)材料の購入原価

(五)間接材料費

一二 労務費計算

(一)直接工の労務費

参考 段取りコスト(Set-up Cost)

(二)間接労務費

一三 経費計算

一四 費用別計算における予定価格等の適用

第三節 原価の部門別計算

一五 原価の部門別計算

一六 原価部門の設定

(一)製造部門

(二)補助部門

一七 部門個別費と部門共通費

一八 部門別計算の手続

(一)部門費の第1次集計

(二)部門費の第2次集計

(三)工程別集計と共通費

第四節 原価の製品別計算

一九 原価の製品別計算および原価単位

二〇 製品別計算の形態

二一 単純総合原価計算

二二 等級別総合原価計算

(一)等価係数(アウトプット基準)

(二)

二三 組別総合原価計算

二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価

(一)完成品換算量の算定

(二)原価配分法

  1. 平均法
  2. 先入先出法
  3. 後入先出法
  4. 簡便法(加工費計算の省略)
  5. 簡便法(予定原価・正常原価の適用)
  6. 簡便法(期末仕掛品の無視)

二五 工程別総合原価計算

二六 加工費工程別総合原価計算

二七 仕損および減損の処理

二八 副産物等の処理と評価

二九 連産品の計算

三〇 総合原価計算における直接原価計算

三一 個別原価計算

三二 直接費の賦課

三三 間接費の配賦

三四 加工費の配賦

三五 仕損費の計算および処理

三六 作業くずの処理

第五節 販売費および一般管理費の計算

三七 販売費および一般管理費要素の分類基準(準備中)

(一) 形態別分類(準備中)

(二) 機能別分類(準備中)

(三) 直接費と間接費(準備中)

(四) 固定費と変動費

(五) 管理可能費と管理不能費

三八 販売費および一般管理費の計算

三九 技術研究費

第三章 標準原価の計算

四〇 標準原価算定の目的

四一 標準原価の算定

四二 標準原価の改訂

四三 標準原価の指示

第四章 原価差異の算定および分析

四四 原価差異の算定および分析

四五 実際原価計算制度における原価差異

四六 標準原価計算制度における原価差異

第五章 原価差異の会計処理

四七 原価差異の会計処理

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