原文
二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価
(二) 次いで、当期製造費用及び期首仕掛品原価を、次のいずれかの方法により、完成品と期末仕掛品とに分割して、完成品総合原価と期末仕掛品原価とを計算する。
第二章 実際原価の計算|原価計算基準
- 当期の直接材料費総額(期首仕掛品および当期製造費用中に含まれる直接材料費の合計額)および当期の加工費総額(期首仕掛品および当期製造費用中に含まれる加工費の合計額)を、それぞれ完成品数量と期末仕掛品の完成品換算量との比により完成品と期末仕掛品とにあん分して、それぞれ両者に含まれる直接材料費と加工費とを算定し、これをそれぞれ合計して完成品総合原価および期末仕掛品原価を算定する(平均法)。
解説
【おさらい】総合原価計算の流れ
「基準二一」「基準二四本文」「基準二四(一)」で見てきた、総合原価計算の流れを大まかにまとめると、
❶原価計算期間(1か月)に発生した全ての原価要素を集計して当期製造費用を求める
❷当期製造費用に期首仕掛品原価を加えて総製造費用を求める
❸期末仕掛品の完成品換算量を計算し、完成品数量と合計した完成品換算総量を求める
❹総製造費用を完成品換算総量を用いて完成品総合原価と期末仕掛品原価とに按分する
❺完成品総合原価の製品単価を計算する
となる。❺に関しては、実は表現が微妙で、今回取り上げる「平均法」では、❹と同時に求められるというか、❹の按分計算をすると不可避的に単価が算出されるといっても過言ではない。
それ以外の方法(先入先出法・後入先出法)では、製品単価を別途計算しなくてはならないケースが発生するので、❹❺の順で作業するといっても違和感はない。
平均法とは何か?
「基準二一 単純総合原価計算」「基準二二 等級別総合原価計算」「基準二三 組別総合原価計算」は、平均法(WA: Weighted Average)を前提に解説がなされている。「平均法」はすべての総合原価計算における計算方法の基礎部分をなすといってもよい。
下記は、「基準二四 本文」にて提示した、総合原価計算(平均法)における完成品総合原価と期末仕掛品原価の按分計算のイメージ図である。
ここから概念的に平均法の本質を説明する。計算技法としての総合原価計算のみ修得できれば十分と考える方は読み飛ばしてもらいたい。
総合原価計算における平均法とは、前期に行った作業結果を集約した期首仕掛原価を、あたかも当期に製造を開始した作業に伴って発生した原価かのように取り扱う。
その本義は、期首仕掛品原価を当期製造費用と合算して、総製造費用としてひとまとめにしてから按分計算にかけるところにある。
前期の作業能率や材料価格は当期とは異なることも多いだろう。しかし、平均法ではそうした前期と当期の作業能率や材料価格の変化を全く無視して、どんぶり勘定に入れてしまって、全て当期作業分の原価のように取り扱う。
先入先出法や後入先出法との比較すると、あらゆる変動への耐性が強いので、最も安定的なコスト計算が可能である。よって、より正常原価に近づけることができるのは平均法である。
逆に、前期や当期といった期間違いの作業能率や価格変動を度外視するから、期間比較に基づく原価管理(差異管理)があまり有効に行えない。平均法に基づく対前期比較の分析結果はどこかしら曖昧な部分が残るからだ。
それは、期首仕掛品の加工進捗度と期末仕掛品の加工進捗度の差分は、当期受入分(仕込分)で結果的に調整されることも同時に意味する。当期稼働分の作業能率はそのまま平均法採用の原価計算に持ち込まれることはない。
しかし、計算手続きが楽なのは圧倒的に平均法だ。これだけで平均法を推すだけの理由になり得るだろう。
平均法による原価配分
原価配分とは、完成品原価と期末仕掛品原価とに当期総製造費用を分割計算(按分)することである。
平均法による原価配分は、原則として、直接材料費と加工費とに区別して行う。これは、基準二二(一)で触れたように、直接材料費と加工費とで期末仕掛品の完成品換算量の推計方法が異なるという前提からだ。
よって、これから計算すべきなのは、直接材料費の完成品総合原価と期末仕掛品原価、加工費の完成品総合原価と期末仕掛品原価の4つである。
当然、完成品総合原価は、直接材料費分と加工費分とを合算したものが最終的な答えとなる(期末仕掛品原価もまたしかり)。
以下、計算式の簡略化のため、略語を使用する。
- 期首仕掛品原価:期首
- 完成品総合原価:当期
- 期末仕掛品原価:期末
- 直接材料費:直材
- 加工費:加工
- 完成品数量:完成品量
- 期末仕掛品数量:期末数量
- 期末仕掛品の完成品換算量:末換算量
- 完成品数量+期末仕掛品の完成品換算量 = 換算総量
\( \displaystyle \bf 当期直材= (期首直材+当期直材) \times \frac{完成品量}{完成品量+末換算量} \)
\( \displaystyle \bf 期末直材= (期首直材+当期直材) \times \frac{末換算量}{完成品量+末換算量} \)
\( \displaystyle \bf 当期加工= (期首加工+当期加工) \times \frac{完成品量}{完成品量+末換算量} \)
\( \displaystyle \bf 期末加工= (期首加工+当期加工) \times \frac{末換算量}{完成品量+末換算量} \)
なお、当然結果は同じになるが、完成品換算総量当たりの単価(平均単価)を先にはじき出し、完成品数量と期末完成品換算量(決して生の期末仕掛品数量ではない!)のそれぞれに掛け算しても同様の答えを求めることができる。
\( \displaystyle \bf 直材換算総量単価= \frac{期首直材+当期直材}{完成品量+末換算量} \)
\( \displaystyle \bf 当期直材= 直材換算総量単価 \times 完成品量 \)
\( \displaystyle \bf 期末直材= 直材換算総量単価 \times 末換算量 \)
\( \displaystyle \bf 加工換算総量単価= \frac{期首加工+当期加工}{完成品量+末換算量} \)
\( \displaystyle \bf 当期加工= 加工換算総量単価 \times 完成品量 \)
\( \displaystyle \bf 期末加工= 加工換算総量単価 \times 末換算量 \)
ポイント
【計算問題】単純総合原価計算 – 平均法による原価配分
筆者は、能書きだけでなく、きちんと手が動く人の方をリスペクト対象としたい性分だ。だから、これまでの説明内容を考慮した計算問題をExcelワークシートで作成してみた。つまり、計算問題としての練習台にもなるし、実務で活用することもできる。
入力欄の青字になっている「数量情報」「計量単位」「期末仕掛品進捗度(%)」「原価情報」「金額単位」に任意の数字/文字を入力すると、計算機能が作動するようになっている。
どんな入力をしても、元ファイルが壊れることはない。入力し直したい、元に戻したい場合は、画面を更新(F5押下など)すれば、初期値に戻る。
自分の手元でじっくり検証したい場合は、上記のダウンロードボタンから、Excelをダウンロードすることをお勧めする。
まずワークシートの仕様・注意点から。
数量情報を入力する際、いの一番で確認しておきたいのが、借方と貸方が一致しているかである。すなわち、期首仕掛品+当期受入(仕込)の投入総計と、完成品+期末仕掛品の産出総計がきちんと合っているかを慎重に確認してもらいたい。
当たり前すぎてここのチェックがなおざりになると、後の計算が全て無駄になってしまう。このワークシートでは貸借バランスが一致すれば「OK」、不一致の場合は「一致しません!」のメッセージが出るように小細工してある。
次のステップは、各原価要素別に、完成品換算総量を求めるようになっている。ここでは、3つの原価要素ごとにそれぞれ別の加工進捗度を設定できるようになっている。
一般的には、直接労務費と製造間接費を合わせて加工費とするから、2つで足りるという気がするかもしれないが、直接材料費について、始点投入と平均的投入と終点投入のいずれかを併用するケースも考慮して3つ用意している。
また、実務上、直接労務費と製造間接費の加工進捗度を違えることは稀だとは思うが、業種(建設業・サービス業など)によっては、加工費に対してコストドライバーとコストプールを複数用意するケースもあることはある。
単純総合原価計算の原価配分問題においては、❶完成品換算総量の比率で按分する、❷完成品換算総量単価を使用する、2つの解法がある。
このワークシート(練習問題)では、後者❷の方を意識して作成している。平均法の場合、❶❷を別々に意識する必然性が低いからだ。
Excelワークシート上の計算手続きの流れ、データ連携のされ方については、Excelネイティブの各種素敵機能で可視化チェックできるようになっている。
例えば、
シート全体の様子が知りたければ、[数式]→[数式の表示] とやれば、シート全てのセルに埋め込まれた関数・数式を画面に一括表示できる。
次に、計算・データの流れが知りたいセルをクリックしたまま、[数式]→[参照元のトレース]または[参照先のトレース]とやれば、参照元/先のセル同士を矢印で結んでくれる。矢印を消したい場合はいつでも[トレース印をの削除]をクリックすればいい。
原価計算基準 逐条詳解
前文
第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準
一 原価計算の目的
(一)財務諸表作成目的
(二)価格計算目的
(三)原価管理目的
(四)予算管理目的
(五)基本計画設定目的
二 原価計算制度
三 原価の本質
(一)経済価値消費性
(二)給付関連性
(三)経営目的関連性
(四)正常性
四 原価の諸概念
(一)実際原価と標準原価
1. 実際原価
2. 標準原価
(二)製品原価と期間原価
(三)全部原価と部分原価
五 非原価項目
六 原価計算の一般的基準
第二章 実際原価の計算
第一節 製造原価要素の分類基準
八 製造原価要素の分類基準
(一)形態別分類
(二)機能別分類
(三)製品との関連における分類
第二節 原価の費目別計算
九 原価の費目別計算
一一 材料費計算
(一)実際材料費の計算
(二)材料の実際消費量
(三)材料の消費価格
(四)材料の購入原価
(五)間接材料費
一二 労務費計算
(一)直接工の労務費
(二)間接労務費
一三 経費計算
第三節 原価の部門別計算
一五 原価の部門別計算
一六 原価部門の設定
(一)製造部門
(二)補助部門
一七 部門個別費と部門共通費
一八 部門別計算の手続
(一)部門費の第1次集計
(二)部門費の第2次集計
(三)工程別集計と共通費
第四節 原価の製品別計算
二〇 製品別計算の形態
二一 単純総合原価計算
二二 等級別総合原価計算
- [本文]
(二)
- [前段] 等価係数(インプット基準)
- [後段] 総括的等価係数(簡便法)
二三 組別総合原価計算
二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価
- [本文]
(一)完成品換算量の算定
(二)原価配分法
二五 工程別総合原価計算
二六 加工費工程別総合原価計算
二七 仕損および減損の処理
二八 副産物等の処理と評価
二九 連産品の計算
三一 個別原価計算
- 三二 直接費の賦課(準備中)
- 三三 間接費の配賦
- 三四 加工費の配賦
- 三五 仕損費の計算および処理
- 三六 作業くずの処理
第五節 販売費および一般管理費の計算
(一) 形態別分類
(二) 機能別分類
(三) 直接費と間接費
(四) 固定費と変動費
(五) 管理可能費と管理不能費
三九 技術研究費
第三章 標準原価の計算
四〇 標準原価算定の目的
四一 標準原価の算定
四二 標準原価の改訂
四三 標準原価の指示
第四章 原価差異の算定および分析
四四 原価差異の算定および分析
四五 実際原価計算制度における原価差異
四六 標準原価計算制度における原価差異
第五章 原価差異の会計処理
四七 原価差異の会計処理
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