原文
一八 部門別計算の手続
(三) 製造部門に集計された原価要素は、必要に応じさらにこれをその部門における小工程又は作業単位に集計する。この場合、小工程又は作業単位には、その小工程等において管理可能の原価要素又は直接労務費のみを集計し、そうでないものは共通費および他部門配賦費とする。
第二章 実際原価の計算|原価計算基準
解説
部門費の小工程・作業単位への集計の位置づけ
基準一八では、部門別計算処理の手順を3段階にまとめている。
- 部門費の第1次集計(原価要素から部門へ集計)
- 部門費の第2次集計(補助部門から製造部門へ集計)
- 小工程・作業単位への集計(前工程から後工程へ集計)☚今ここ
「基準一五 原価の部門別計算」で図示した部門別計算の全体像を再掲する。
部門費の小工程・作業単位への集計は、部門費の集計手続きの第3段階にあたるもので、主として原価管理のための手続きである。
製造部門といっても、実際的には複数の小工程や作業単位に分かれていることも多い。とある製造部の中に生産ラインが2つあれば、作業班も2つになり、職長が現場管理責任を負う単位も2つになるだろう。であれば、この職長の管理範囲の原価要素だけを集計して原価部門を形成させ、これまで見てきたように部門別計算の用を足せるようにして、適切な製品原価の計算や部門単位の原価管理に役立つようにした方が全体最適につながるだろう。
つまり、小工程や作業区分をひとつのコストセンターとして原価管理の単位とするのである。
さらに、ここでいう小工程の単位は、「基準二五 工程別総合原価計算」で言うところの工程ともなり得ると理解してよいだろう。もちろん製造部門全体でひとつの工程としてもよい。要は、適切な製品原価の計算に資する単位が設定できれば良い。
集計対象コスト
基準には小工程・作業単位に集計すべきコストとして、「その小工程等において管理可能の原価要素又は直接労務費のみを集計」と説明している。ここから、例えば、小工程を預かる職長にとっての管理可能費を定義づけることが肝要であることが分かる。直接労務費が例示されているのは、職長の管理可能費の典型例であるが故である。
基準ではこうした小工程・作業単位に集計されないコストは、「共通費」「他部門配賦費」とされている。
このときの共通費とは誰にとっての共通的な性質を持つかをきちんと把握する必要がある。あくまで当該製造部門内に包含されている小工程・作業単位における管理者の立場から見て共通費でなのであって、その一段上の管理集計単位である製造部門にとってみればこの共通費も部門固有費(自部門で発生していることが認められる)のひとつにすぎない。
用語の類似性だけをもって、この共通費を、基準一七で明らかにされた部門共通費と同一視するのは適切ではない。基準一七の部門共通費は、費目別集計されている原価要素を各部門(製造部門・補助部門)に跡づける際に配賦計算されるべき対象のものを意味する。中身を見れば同じものが該当することが多いかもしれないが、定義のための枠組みが異なることに留意すべきである。
また、他部門配賦費は文字通り、補助部門から第2次集計の手続きを経て製造部門に配賦された対象金額が該当するが、これも、補助部門から配賦された全額をそのまま意味しない。補助部門から配賦された金額の内、小工程等の職長が管理できない対象金額に限定して、他部門配賦費と呼ぶからだ。
結論はこうだ。
ポイント
職長にとっての管理可能費の識別理由
小工程を預かる職長にとって、管理可能費のみを小工程に集計するのは、職長に対して、責任と権限が一致する範囲において、当該小工程の原価管理を任せるためである。それゆえ、何が職長にとって管理可能費となるかの定義は大変重要だが、これも職場事情や生産対象品目によって千差万別で絶対にこれという定義を行うのは困難だ。
しかし、管理可能費の洗い出しのための検討作業のとっかかりを得るためには、最初から定義づけの努力を放棄するのも問題だ。以下に、あくまで参考指針としてやや強引な定義表を提示する。ご参考頂きたい。
構成要素 | コストセンターの 管理可能性 | 分類 | 処理方法 |
---|---|---|---|
製造部門の部門個別費 | 管理可能費 (例 職工の賃金) | 小工程費 | ・各コストセンターに集計 ・職長による原価管理 ・次工程へ振り替え |
管理不能費 (例 製造部門長給料) | 共通費 | ・適当な配賦率で製品へ配賦 | |
製造部門の部門共通費 | 管理不能費 (例 建物減価償却費) | 共通費 | ・適当な配賦率で製品へ配賦 |
補助部門からの配賦額 | 管理可能費 (例 動力費) | 小工程費 | ・各コストセンターに集計 ・職長による原価管理 ・次工程へ振り替え |
管理不能費 (例 工場管理部長給料) | 他部門配賦費 | ・適当な配賦率で製品へ配賦 |
原価計算基準 逐条詳解
前文
第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準
一 原価計算の目的
(一)財務諸表作成目的
(二)価格計算目的
(三)原価管理目的
(四)予算管理目的
(五)基本計画設定目的
二 原価計算制度
三 原価の本質
(一)経済価値消費性
(二)給付関連性
(三)経営目的関連性
(四)正常性
四 原価の諸概念
(一)実際原価と標準原価
1. 実際原価
2. 標準原価
(二)製品原価と期間原価
(三)全部原価と部分原価
五 非原価項目
六 原価計算の一般的基準
第二章 実際原価の計算
第一節 製造原価要素の分類基準
八 製造原価要素の分類基準
(一)形態別分類
(二)機能別分類
(三)製品との関連における分類
第二節 原価の費目別計算
九 原価の費目別計算
一一 材料費計算
(一)実際材料費の計算
(二)材料の実際消費量
(三)材料の消費価格
(四)材料の購入原価
(五)間接材料費
一二 労務費計算
(一)直接工の労務費
(二)間接労務費
一三 経費計算
第三節 原価の部門別計算
一五 原価の部門別計算
一六 原価部門の設定
(一)製造部門
(二)補助部門
一七 部門個別費と部門共通費
一八 部門別計算の手続
(一)部門費の第1次集計
(二)部門費の第2次集計
- 参考 階梯式配賦法における配賦序列の決定(準備中)
(三)工程別集計と共通費
第四節 原価の製品別計算
二〇 製品別計算の形態
二一 単純総合原価計算
- 参考 当期受入量の完成品換算量の計算パターン(準備中)
- 参考 始点投入の直接材料費の完成品換算量(準備中)
- 参考 総合原価計算のための計算ツール(準備中)
- 参考 総合原価計算を公式法で解く(準備中)
- 参考 総合原価計算をボックス図法で解く(準備中)
- 総合原価計算を個別ワークシート法で解く
- 総合原価計算を共通ワークシート法で解く
二二 等級別総合原価計算
- [本文]
(二)
- [前段] 等価係数(インプット基準)
- [後段] 総括的等価係数(簡便法)(準備中)
二三 組別総合原価計算
二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価
- [本文]
(一)完成品換算量の算定
(二)原価配分法
二五 工程別総合原価計算
二六 加工費工程別総合原価計算
二七 仕損および減損の処理
二八 副産物等の処理と評価
二九 連産品の計算
三〇 総合原価計算における直接原価計算
三一 個別原価計算
三二 直接費の賦課
三三 間接費の配賦
三四 加工費の配賦
三五 仕損費の計算および処理
三六 作業くずの処理
第五節 販売費および一般管理費の計算
三七 販売費および一般管理費要素の分類基準(準備中)
(一) 形態別分類(準備中)
(二) 機能別分類(準備中)
(三) 直接費と間接費(準備中)
(四) 固定費と変動費
(五) 管理可能費と管理不能費
三八 販売費および一般管理費の計算
三九 技術研究費
第三章 標準原価の計算
四〇 標準原価算定の目的
四一 標準原価の算定
四二 標準原価の改訂
四三 標準原価の指示
第四章 原価差異の算定および分析
四四 原価差異の算定および分析
四五 実際原価計算制度における原価差異
四六 標準原価計算制度における原価差異
第五章 原価差異の会計処理
四七 原価差異の会計処理
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