原文
一八 部門別計算の手続
(二) 次いで補助部門費は、直接配賦法、階梯式配賦法、相互配賦法等にしたがい、適当な配賦基準によって、これを各製造部門に配賦し、製造部門費を計算する。
一部の補助部門は、必要ある場合には、これを製造部門に配賦しないで直接に製品に配賦することができる。
第二章 実際原価の計算|原価計算基準
解説
部門費の第2次集計の位置づけ
基準一八では、部門別計算処理の手順を3段階にまとめている。
- 部門費の第1次集計(原価要素から部門へ集計)
- 部門費の第2次集計(補助部門から製造部門へ集計)☚今ここ
- 小工程・作業単位への集計(前工程から後工程へ集計)
「基準一五 原価の部門別計算」で図示した部門別計算の全体像を再掲する。
部門費の第2次集計とは、補助部門費を適当な配賦基準をベースに製造部門に配賦することである。補助部門が用役を提供した関係部門に対して配賦を行うのだが、ある補助部門が用役を提供する先の関係部門は、製造部門もあれば、他の補助部門のこともある。
とある補助部門から別の補助部門への用役提供をどのように配賦計算に反映するかは、そのとき採用された配賦方法によって異なる。
しかしながら、紆余曲折を経ようとも、補助部門費は必ず製造部門へ必ず配賦され、最終的には確実に製品原価へ反映されることになる。
補助部門費の配賦計算方法
基準は補助部門費に対する配賦計算方法として、「直接配賦法」「階梯式配賦法」「相互配賦法」等を例示している。基本的に、配賦基準は、補助部門の提供する用役の程度に応じた対価として相応しい配賦額だけを負担するように合理的な配賦計算方法の基礎として適用されるべきである。
その見極めのポイントは、物理的な用役の提供量と提供先の実態と、どれだけ配賦額が比例的(相関的)になっているかに尽きる。それゆえ、主に、補助部門同士の用役の授受についてどのような仮定を置くかで選択されるべき配賦計算方法が異なってくる。
例えば、材料保管部は、製造部門と動力部の原材料を保管しているとする。一方で動力部が生み出したユーティリティは、製造部門と材料保管部に提供されているとする。最終的には補助部門費も給付計算として製品原価へ算入されなければならないから、材料保管部から動力部へ提供された用役分の材料保管部費と、動力部から材料保管部へ提供された用役分の動力部費は、いつかは製造部門へ配賦されて行かねばならない運命にあるのは間違いない。
補助部門間の用役授受をどのように配賦計算に盛り込むかという視点から、伝統的な配賦計算の範囲において、一般的には以下の3方法が代表的なものとなる。
相互配賦法は計算技法によってさらに細分化される。
- 直接配賦法
- 階梯式配賦法
- 相互配賦法
- 簡便法としての相互配賦法(製造工業原価計算要綱に規定される相互配賦法)
- 純粋な相互配賦法
- 連続配賦法
- 試行錯誤法
- 連立方程式法
種類 | 説明 | 評価 |
---|---|---|
直接配賦法 | 補助部門間の用役授受は無視し、製造部門に対してのみ用役を提供したかのように計算する | 計算の簡略化のために補助部門間の用役授受を無視しているため、正確性を欠く |
階梯式配賦法 | 補助部門間の用役授受について、上位に定義した補助部門から下位に定義した補助部門だけに一方通行の配賦を段階的に行う | 直接配賦法と相互配賦法の折衷案。補助部門数が増えると階梯の定義が面倒で、設計は最も複雑になる |
相互配賦法 | 補助部門間相互の用役授受の事実を計算上も認め、補助部門費を用役を生じする他補助部門へも配賦する | 補助部門間の用役授受を考慮する分、直接配賦法より計算が面倒になる傾向が強い |
- 要綱の相互配賦法 | 第1次配賦:純粋相互配賦法 第2次配賦:直接配賦法 | 補助部門同士の用役提供の一部を計算に盛り込め、かつ計算が簡略である。その分だけ計算結果に正確性を欠く |
‐ 連続配賦法 | 補助部門費がゼロになるまで相互配賦法を繰り返す | 補助部門同士の用役提供を計算に盛り込めるが、計算の手間が面倒になる |
‐ 試行錯誤法 | 配賦相当額を予想し、配賦残がゼロになるまで計算試行を繰り返す | 補助部門同士の用役提供を計算に盛り込めるが、計算の手間が最もかかる⇒現代では、Excelのゴールシーク機能で代用可 |
‐ 連立方程式法 | 連立方程式を立てて解く | 補助部門同士の用役提供を計算に盛り込め、純粋相互配賦法の中で最も正確といわれる。方程式の設定に不慣れだと手間がかかる |
補助部門費の配賦計算パターン
補助部門費の配賦計算について、基準には補助部門間の用役授受をどのように配賦計算に反映するかについての計算方法が3つ例示されているが、その他にも配賦基準の選択として、単一か複数か、実際配賦か予定配賦かという論点もある。
原価計算基準が設定された当時、複数基準配賦法は想定されておらず、単一基準配賦法のみが想定されていた。しかし今日では、理論的に変動費と固定費のそれぞれに別個の配賦基準を適用する複数基準配賦法の方が優れていると考えられている。
また、基準一八(二)では、予定配賦に言及されていないため、実際配賦が原則であると思われがちであるが、「基準四五(七)補助部門費配賦差異」で、予定配賦を前提とした規定がなされているので、ここでは予定配賦が原則であると解される。
補助部門間の用役授受を認めた計算の方が正確になるという理由から、理論的には相互配賦法が望ましいとすると、想定できる補助部門費の配賦計算パターン(組み合わせ)の全部からひとつベストパターンを選ぶと、下記のように図解できる。
計算要素 | 欠点 | 克服法 |
---|---|---|
単一基準配賦法 | 実際用役消費量の単一レートだと、固定費配賦額の発生と実際用役消費量との間に相関性がない | 固定費は用役消費能力で配賦すべき⇒複数基準配賦法へ |
実際配賦 | 補助部門で発生する予算差異の責任が製造部門に転嫁される | ⇒予定配賦を行い補助部門で予算差異を認識できるようにする |
固定費配賦レート | 固定費配賦に単純な配賦レートを用いると、操業度差異が補助部門に残る | ⇒固定費は予算許容額を配賦して、操業度差異は製造部門で認識できるようにする |
【容認】製造部門に配賦しない補助部門費
基準一八(二)では部門費の計算手続きの第2次集計として、原則は補助部門費を製造部門へ配賦することを指示しているが、一部の補助部門費を例外的に製造部門に配賦しないことを容認している。
その趣旨は、その当該補助部門費が、
❶金額的に重要性に乏しく、製造部門への配賦計算を省略したほうが合理的である、
❷直接的に製品へ配賦したほうが合理的な計算結果を生むと判断される、
という条件を満たす場合には製造部門への配賦をわざわざ行わず、直接的に、仕掛勘定(製造勘定)または製品勘定に配賦/直課する処理を容認するということである。
基準で明示はされていないものの、こうした製造部門への配賦を省略するに相応しいものの一例として、「基準一七 部門個別費と部門共通費」で補助部門費とすることを容認された「一般費」がそれに該当すると考えるのが自然である。
そもそも一般費は、部門費の第1次集計の段階で、製造部門への適当な配賦基準が得られないものとして別枠として補助部門費扱いされたものだから、第2次集計においても、これを恣意的に製造部門に配賦しても、計算の正確性を妨げるだけである。
そこで、一般費は別の配賦基準で直接製品へ配賦して、専ら製品原価の計算を正確にすることに努めようという考え方を優先させたと解する。
このとき、一般費の製品への配賦基準が問題になるが、厳密な意味での原価の消費量基準は得られそうにない。便法としてそれに近い基準を探し出してきて適用するか、あるいは最終手段として原価負担能力基準を用いることになろう(⇒「基準一七 ポイント 適当な配賦基準例 個人的な意見」)。
ポイント
補助部門費を製造部門へ配賦する理由
補助部門費を製造部門に配賦する理由として、ひとつは製品原価の正確な計算を行うためである。
製品は製造部門を通過しながら加工されつつ、やがて完成するに至る。だから、製造部門費はそこを流れる製品へ直接紐づけることが比較的容易になる。しかし、製品は補助部門を通過しないので、補助部門費を直接製品に紐づけることはできない。
そこで、補助部門費を製造部門へ配賦することで、製品は、製造部門において加工を受けた程度に応じてその製造部門費を負担することで、その製造部門に製品が流れたときに、製造部門の部門固有費と共に製造部門へ配賦された補助部門費も製品原価に集計させることで、ある意味で全部原価計算を果たすことができるのである。
ふたつ目の理由は、責任会計の見地からである。補助部門の用役を消費した部門は、その補助部門の原価を受けた用役の対価として、その消費分の程度に応じて負担すべきという考えによる。
適当な配賦基準
これは、基準一七で見た通り、❶共通性、❷相関性(比例性)、❸経済性を考慮してそれぞれの補助部門費にとって最適なものを選択していく。一例としては下記の通り。
- 動力部費:関係各部門の電力消費量
- 検査部費:関係各部門の検査時間
- 運搬部費:関係各部門への運搬回数、製品の重量
複数基準配賦法
複数基準配賦法とは、補助部門費を固定費と変動費とに分けて、固定費の方は用役消費能力、変動費の方は実際用役消費量に基づいて、関係部門に配賦する方法である。
仮に単一基準配賦法を用いて、固定費を変動費と同じく実際用役消費量に比例して配賦したとすると、とある用役消費部門が受ける配賦額は、自部門以外の用役消費部門の実際用役消費量の大小によって左右されてしまう。自部門が如何に消費量を節約して作業効率化を図ったとしても、無駄遣いをした他部門の放漫経営の余波を受けるのは望ましくない。
固定費は、キャパシティコストとして、その用役提供の準備がなされた時点で支出金額が決まり、実際の用役提供量が変動しても、その発生額は変わらない。よって、あらかじめ定められた各部門の消費能力割合に基づいてキャパシティコストは配賦されていくのが合理的である。
「基準三三(五)予定操業度」にあるように、予定配賦率の基準となる予定操業度は原則として、最大操業度から生産側の事情を勘案した生産減少分を考慮した実現可能操業度である。これが用役消費能力の定義に最適と考えられる。
であれば、複数基準配賦法を採用する場合、予定操業度の設定条件に従うと下記のように整理される。
- 基準操業度が実現可能操業度の場合
- 固定費:基準操業度(つまり実現可能操業度)に基づいて配賦
- 変動費
- 予定配賦:基準操業度(つまり実現可能操業度)に基づいて配賦
- 実際配賦:実際用役消費量に基づいて配賦
- 基準操業度が実現可能操業度以外の場合
- 固定費:常に用役消費能力(実現可能操業度)に基づいて配賦
- 変動費
- 予定配賦:(その時に選ばれた)基準操業度に基づいて配賦
- 実際配賦:実際用役消費量に基づいて配賦
原価計算基準 逐条詳解
前文
第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準
一 原価計算の目的
(一)財務諸表作成目的
(二)価格計算目的
(三)原価管理目的
(四)予算管理目的
(五)基本計画設定目的
二 原価計算制度
三 原価の本質
(一)経済価値消費性
(二)給付関連性
(三)経営目的関連性
(四)正常性
四 原価の諸概念
(一)実際原価と標準原価
1. 実際原価
2. 標準原価
(二)製品原価と期間原価
(三)全部原価と部分原価
五 非原価項目
六 原価計算の一般的基準
第二章 実際原価の計算
第一節 製造原価要素の分類基準
八 製造原価要素の分類基準
(一)形態別分類
(二)機能別分類
(三)製品との関連における分類
第二節 原価の費目別計算
九 原価の費目別計算
一一 材料費計算
(一)実際材料費の計算
(二)材料の実際消費量
(三)材料の消費価格
(四)材料の購入原価
(五)間接材料費
一二 労務費計算
(一)直接工の労務費
(二)間接労務費
一三 経費計算
第三節 原価の部門別計算
一五 原価の部門別計算
一六 原価部門の設定
(一)製造部門
(二)補助部門
一七 部門個別費と部門共通費
一八 部門別計算の手続
(一)部門費の第1次集計
(二)部門費の第2次集計
- 参考 階梯式配賦法における配賦序列の決定(準備中)
(三)工程別集計と共通費
第四節 原価の製品別計算
二〇 製品別計算の形態
二一 単純総合原価計算
- 参考 当期受入量の完成品換算量の計算パターン(準備中)
- 参考 始点投入の直接材料費の完成品換算量(準備中)
- 参考 総合原価計算のための計算ツール(準備中)
- 参考 総合原価計算を公式法で解く(準備中)
- 参考 総合原価計算をボックス図法で解く(準備中)
- 総合原価計算を個別ワークシート法で解く
- 総合原価計算を共通ワークシート法で解く
二二 等級別総合原価計算
- [本文]
(二)
- [前段] 等価係数(インプット基準)
- [後段] 総括的等価係数(簡便法)(準備中)
二三 組別総合原価計算
二四 総合原価計算における完成品総合原価と期末仕掛品原価
- [本文]
(一)完成品換算量の算定
(二)原価配分法
二五 工程別総合原価計算
二六 加工費工程別総合原価計算
二七 仕損および減損の処理
二八 副産物等の処理と評価
二九 連産品の計算
三〇 総合原価計算における直接原価計算
三一 個別原価計算
三二 直接費の賦課
三三 間接費の配賦
三四 加工費の配賦
三五 仕損費の計算および処理
三六 作業くずの処理
第五節 販売費および一般管理費の計算
三七 販売費および一般管理費要素の分類基準(準備中)
(一) 形態別分類(準備中)
(二) 機能別分類(準備中)
(三) 直接費と間接費(準備中)
(四) 固定費と変動費
(五) 管理可能費と管理不能費
三八 販売費および一般管理費の計算
三九 技術研究費
第三章 標準原価の計算
四〇 標準原価算定の目的
四一 標準原価の算定
四二 標準原価の改訂
四三 標準原価の指示
第四章 原価差異の算定および分析
四四 原価差異の算定および分析
四五 実際原価計算制度における原価差異
四六 標準原価計算制度における原価差異
第五章 原価差異の会計処理
四七 原価差異の会計処理
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